心地よいおしゃべりに乗せて

海門寺公園のほど近く。「魚」と書かれた店看板の明かりが、ぽっと灯る。「みしまじょろ食堂」は、まちこさんとあきさんの母娘が営む、どこかミステリアスな雰囲気のある食堂。カウンターに腰をかけると、ぱきっとした赤色の厨房が目にうつる。

 

 

「湯飲みはテーブルの上。水は冷蔵庫に入っとるけん、適当にとって飲みよ」と、あきさん。別府のお店を渡り歩けば、セルフサービスも慣れたもの。注文したのは、カンパチの刺身定食、ゴーヤの卵とじ。それに「今日はコチが入ったけん、唐揚げがおすすめよ」ということで、聞き慣れない名前の魚に興味が湧き、追加してみた。

 

 

「豊後水道で捕れる海底魚でな。コチとかマゴチっち言って、おいしいんよ」とテーブル席に座っていた先客のご夫婦が教えてくれた。捌く直前のコチを、厨房越しのあきさんが抱えて見せてくれる。上から覗き込むと、頭が押しつぶされたように平べったく、両目が真横に付いている。「この包丁は母ちゃんの嫁入り道具。これで捌くんよ」。

 

 

まちこさんご夫婦は、もともとは故郷の県南・佐伯市で漁師をしていた。そのため、あきさんは子どもの頃から魚ばかり食べていたという。「毎日、朝から刺身が出てくるんね。嫌やったわぁ」と、何とも贅沢な話。「何して遊ぶって、海しかねぇけんな」。釣りをしたり、浜辺で貝殻を拾ったり。いつかの夏の記憶のような、透き通った海の広がる町を想像する。母娘のさっぱりとした話しぶりが、耳に心地いい。

まちこさんが漁師をやめたあと、息子さんの進学や仕事がきっかけで「いつのまにか」家族が別府に集まり、この町で暮らすようになったのだとか。

 

 

話を聞いているうちに、料理ができあがった。カンパチの刺身は新鮮で身が厚い。「骨に気ぃつけて食べてね」と出されたコチの唐揚げは、ふっくらと柔らかく衣が香ばしい。思わず顔がほころび、お箸がすすむ。

 

 

それにしても、色気のあるお店の名前。その由来を尋ねると、まちこさんがお店の本棚から一冊の魚図鑑を開いてくれた。「うちは米水津(よのうず※佐伯市)の生まれやけん。地元の漁師はみんな、オコゼのことを『みしまじょろ』っち呼んでたんよ」。そしてオコゼの写真を指差しながら「こいつも、不細工な顔しちょんやろ」と笑う。

 

 

軽快で心地いいおしゃべりに乗せて、いい気持ちでお酒を飲んでいると、仕事のことも恋愛も、2人に何でも話せてしまいそうだ。

美味しいお料理と朗らかな会話を堪能し、お会計を済ませると、カウンターの中から「ありがとね」と気っ風のいい声が響く。のれんをくぐると、ほろ酔いの軽い足取りで、駅前通りに向かって歩き出した。今日はこのまま別府の夜に身を委ねよう。

みしまじょろ食堂

ミシマジョロショクドウ

住所別府市駅前本町1-14柴田ビル1F
営業時間17:00〜24:00(ランチ有)
休日水曜
電話番号090-1923-8814
駐車場なし
オススメ
商品
刺身定食(夜メニュー) 1200円