橙色ののれんをくぐると、黒塗りの器にずらりと並んだてんぷらと、女性店員の元気な声が迎えてくれた。「手作りのてんぷらって少ないやん。だから少しずつでも手作りにこだわって作り続けているの」と店主の清田さんは控えめに笑う。石の鉢で練りあげられた魚のすり身に、大きめに切った野菜を混ぜて食感を加える。添加物を一切使用せず、丁寧に仕上げられたてんぷらは、作ったその日のうちに食べてほしいと言う。地域はもちろん、県外から通う常連さんもいるというこのお店は、売り切れ次第閉店する。開店と同時に完売してしまったこともあったとか。
「ときどき無性に食べたくなるの」と言うお母さんに、おすすめの食べ方を聞いてみると「そのまま食べるのが1番」とのこと。お母さんの言う通り、揚げたてのてんぷらをそのままかじると、プリッとした食感と、噛み締めるたびに広がる魚の旨味と甘みに、夢中になって食べ進めてしまった。別府の素材がぎゅっと詰まった、ちょっと遠回りしてでも食べたい味だ。
紅茶の好き嫌いはある?
石畳の通りに面した『紅茶と焼き菓子』と書いてある木のドアを開けると、ふわりと甘くて香ばしい香りが漂ってきた。そしてカウンターの向こうにいらっしゃったのは、意外にも男性のご主人、村谷さん。一番奥のカウンターに腰掛けて、お話に耳をすましてみると、どうやら先客はみんな、地元の方のよう。
「紅茶の好き嫌いはある?」と、生まれて初めて受ける質問にちょっととまどっていると「香りがついた紅茶が苦手という方はいるね。例えばアールグレイはベルガモットの香りがついているんだよ」と、出てくる出てくる、紅茶のあれこれ! 聞けば、仕事で扱うようになったのがきっかけで、本を見ながらちゃんと紅茶を淹れてみたら、その美味しさにびっくりしたのだとか。「家で奥さんに淹れたら、美味しい!と褒められてね。うれしくなっちゃった。一時期、親戚が家に集まることがあって、紅茶をふるまうことが続いてね」
紅茶といえば、ということで作りはじめた焼き菓子は、ビンに詰めて置いておくと子どもたちがあっという間に食べてしまったそう。
こんなに美味しいのだからと、周りに後押しされるようにしてオープンしたカフェ。家族に喜ばれた紅茶と焼き菓子は、とても美味しい味がした。
これからバドミントンなの、と先客の学生さん。またね、と見送る村谷さん。「この界隈で育っているから、近所の人にかわいがられるお店でいたいね」その言葉通りのこのお店には、温かい空気が流れていた。
帰り際「食べてみる?」と差し出されたイチゴは、小ぶりだけれどとっても甘かった。カウンターの中に見えた、赤いビン詰めが気になって眺めていると、「これはね、作るのとっても簡単なんだよ」と、こっそり作り方を教えてくれた。旅から帰ったら、イチゴをたくさん買いに行こう。そして煮詰めたジャムを、思い出と共にビンに詰めるのだ。
Tea Room Cozy Corner
ティールーム コージーコーナー
住所 | 別府市元町3-2 |
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営業時間 | 12:30〜15:30/17:30〜21:30 |
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休日 | 火曜 |
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電話番号 | 0977-75-8187 |
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駐車場 | 2台 |
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オススメ 商品 | 季節のフルーツタルト 400円〜480円 |
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今も昔も変わらずに
その建物の大きさは想像以上だった。これが竹瓦温泉。せっかくなので、建物の周りも歩いてみることにした。足を踏み入れるのを迷ってしまうくらいひっそりとした横道に入ると、なんだか建物の影に隠れた気分。少し開いた窓からは高い天井が見え、楽しそうな人の声がこだましている。地面の隙間からは湯気がもくもく立ち昇っていた。
そのうちに見えてきた、小さいけれど立派な入り口はどうやら昔のもののよう。建物の角に立ち、両方の入り口を眺めてみた。
旅人とまちの人を迎え入れる温泉は、今も昔も変わらずここにある。
>まちのおフロにおじゃまします<
威風堂々。
どっしりそびえ立つ豪壮な建物。
お寺? 旅館?
いいえ、ここはみんなが集う公共の湯。
「竹瓦温泉」へようこそ。
「はい、いらっしゃい」
番台のお母さんの笑顔が迎えてくれた。
「お風呂は100円よ。うちは洗面器しかないからね。タオルは持ってる?」差し出されたタオルにはレトロなイラストがプリントされている。旅の思い出にと1枚購入した。
「お風呂はのれんの奥よ。ごゆっくりしていってね」
広間に足を踏み入れたら、時が止まっているような静かな空間が広がっていた。チクタクチクタクと、古時計がゆっくりと時をすすめる。「時間はあるよ。ゆっくり休んでいきなさい」って言ってくれているみたい。
えんじ色ののれんと日本髪の女性のシルエットが掲げられているのが女湯の入り口。
のれんをくぐったとたんに、温泉の気配をしっかりと感じる。ほのかな温かさを帯びた空気はしっとりとやわらかくて、なんだか固まっていた心がほぐれていくようだった。脱衣所と浴室の間には、壁も扉もない。脱衣所の手すりから身を乗り出すと、U字型の浴槽が見えた。
かかり湯で体にお湯の熱さを教えて、そろそろと身を沈める。手足を広げてグーッと背伸びをしたら思わず声が出てしまった。極楽極楽……。
吹き抜けの高い天井を見上げながら、ぼーっとお湯に沈んでいると「気持ちいいかい?」とおばあちゃんの声。
「ここのお湯はやわくてよかろ。もう何十年も通いよる」とニッコリ笑って、昔話のはじまりはじまり。かわいいおばあちゃんともっとゆっくりお話ししたかったけれど、体はすでにのぼせる直前。
「ごゆっくり」
浴室を後にすると、ほてった体を脱衣所にしつらえられたベンチにあずけて、ひと休み。
長い間使い込まれたあめ色のロッカーとまんまる鏡がとても愛らしかった。
<竹瓦温泉の入り方>
その1、 用具はイスと洗面器のみ
アメニティはご自身で
その2、 脱衣所入口のドアは開いたまま
気になる方は奥の方へ
その3、 入浴前に下半身を綺麗に洗うこと
その4、 湯船のふちに腰かけない
その5、 源泉温度は少々熱め
ぬる湯好きの方は壁際の水道そばがおすすめ
その6、 湯あがりは広い休憩所でのんびりと
みんなの温泉です。
ルールを守って気持ちよく、楽しく入りましょう。
「ああ、いいお湯やった」
髪をふきふき、ほんのり赤ら顔したおじいちゃんのお風呂セットを拝見。くたくたのナイロン袋の中には使い込まれた洗面器とボディタオル、そして大きな石鹸箱。
「こりゃ牛乳の石鹸じゃ。こんな大きな石鹸を使いようもんはおらんじゃろう。やっぱぁこれがいい」牛乳の石鹸もしあわせものだ。
もう1つ、ナイロン袋につながれた定期入れ。差し込まれた紙には1〜180までの数字と赤○印。
「これはな、年とるともらえるお風呂の券じゃ。ええじゃろ」
ハッハッハとちょっぴり自慢気なおじいちゃん。180回分ですか?と尋ねると
「そう、180『日』分」
そうか、ここは湯のまち別府。温泉は毎日のお風呂だ。なんて贅沢。うらやましい!
竹瓦温泉
タケガワラオンセン
住所 | 別府市元町16-23 |
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営業時間 | 普通湯 6:30〜22:30 砂湯 8:00〜22:30(最終受付21:30 ※混雑状況により早まることもあり) |
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休日 | 普通湯 なし(※年末清掃による臨時休館あり)/砂湯 第3水曜(祝日の場合翌日) |
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電話番号 | 0977-23-1585 |
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駐車場 | なし |
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オススメ 商品 | 普通湯 100円/砂湯 1030円 |
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焼餃子とビールのみ
裏銀座通りと呼ばれる、ソルパセオ銀座商店街に沿って伸びる細い裏路地。その角にある「湖月」はランチタイムを過ぎた14時からようやく開店する。カウンターの前に椅子が7つ、舌代と書かれたメニューには「鍋烙」と記された焼き餃子と「ビール」の文字のみ。
注文すると奥の厨房からパチパチ、ジューっと餃子を焼く音が聞こえてくる。鉄の餃子鍋から皿に移されたばかりの焼きたてを自家製のラー油とタレにつけて食べる。手作りの薄い皮には、口の中に入れるとほろりと崩れるほどパリッと焼きあげられている。「メリケン粉も野菜もいいのじゃないと。八百屋にも、高くていいけん一級品持ってくるように言うんよ」。
朝の5時半からご主人の上瀧(こうたき)さんが皮を仕込み、娘さんと2人で出来あがった皮に餡を詰める作業を終えると、昼を過ぎてしまう。だからオープンは14時からということらしい。夕方になると仕事帰りのサラリーマンやお酒を飲みに行く前の腹ごしらえに立ち寄る人が多くなるという。
17歳の時から手伝いを始めたという上瀧さんが娘さんと2人で切り盛りするこのお店は、先代が満州から引き揚げて来たときに始めたそう。「満州で、お祭りのときなんかに作る餃子な、あれを真似して作ったんよ。昭和22年頃、みんな餃子なんて知らん中、始めたっち」
この場所で50年以上、素材にこだわって餃子を作り続けている「湖月」。帰省客や学生時代を別府で過ごした人が「まだあった」と扉を開くことも度々あるという。そんなお客さんを、ずっと変わらず焼餃子とビールだけでもてなす、シンプルで潔いお店だ。
ぎょうざ専門店 湖月
ギョウザセンモンテン コゲツ
住所 | 別府市北浜1-9-4 |
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営業時間 | 14:00〜21:00 |
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休日 | 火曜 |
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電話番号 | 0977-21-0226 |
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駐車場 | なし |
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オススメ 商品 | 焼餃子 600円 |
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