温泉にも詳しい高崎さんの元には、日本全国の温泉好きが集い、様々な情報交換が行われている。喫茶を利用すると入浴できる温泉がタイミング良く空いているということで、先に入らせていただく。手作りの岩風呂から上がり、ぽかぽか気分で喫茶スペースに戻ると、「良いお湯でしたか?」と声をかけてくれる。
退職後、奥さんの後押しで、このお店を開いたという高崎さんが「人との出会いが楽しい。色んな人とつながって、面白い毎日を過ごせているのは妻のおかげ」と奥さんへの感謝の気持ちを話すと「温泉のおかげやろ。温泉があるけん、みんな集まるんよ。私らはお風呂に入りに来た人たちとお話ししよるだけ」と奥さん。「そりゃそうやな」と微笑み合う2人の周りには、お店の雰囲気そのままの温かい空気が流れていた。
思い出を連れて帰る
永石温泉近くの五叉路を山手方面に少し歩くと、白い猫の絵が描かれたガラス戸に出会った。車通りに気を付けながら、引き寄せられるように近づいてみる。
『SPICA雑貨店』のオーナー・高野豊寛さんは生まれも育ちも別府。実家はお店の目の前で表具屋を営んでいるのだという。『SPICA雑貨店』は、もともと表具屋だったおじいさんが作業場として使っていた場所なのだとか。小さい頃から、おじいさんやお父さんの仕事姿を眺めるのが好きだったという高野さん。掛け軸を丁寧に修復するなど、室内装飾にまつわる作業のようすを見つめながら成長した。「独特の古いもの、使い込まれて癖の出ているもの、風合いのあるものが好きですね」というのも、思わず納得してしまう。
店内は元作業場の名残りなのか、天井の鉄骨がむき出しになっている。床と柱に使われている木材や白い壁と調和して、心地のいい空間だ。高野さんをはじめ、奥さんのかおりさんやスタッフ全員が穏やかで、柔らかな雰囲気を作り出している。
高野さん夫妻のお店づくりの原点は、若い頃にしていた雑貨店めぐりの旅なのだという。各地のお店に出かけては、店主や作家と対話し、知恵やアイデアが形になっている「もの」の美しさや、「もの」にまつわる物語に耳を傾け、旅の思い出として購入して連れて帰る。その感覚が何より面白かったのだとか。
陶磁器、調味料、コーヒー、色とりどりの便箋、ハンカチ。キッチングッズ、リネン素材の洋服。奥行きのある店内は、どこを見渡しても胸が躍る。ふと脇に目をやると、小さな椅子に座って女の子と男の子が絵を描いている。お母さんはその姿を見守りながらも、店内で買い物を楽しんでいた。
『SPICA雑貨店』は、2015年に内装をリノベーションし、広い展示スペースを増設した。ここでは、いろんな作家の展示会を期間限定で開催しているのだという。作家とおしゃべりしながら展示会の企画が決まることもあるそうで、高野さんにとってはその「流れ」に乗ってみることが自然なお店のあり方なのだという。
「もの」の存在感を大切にしつつ、店全体を1つの「町」のように俯瞰しながら構成する。「次に自分は何を見たいのか。常にここにない要素を探しているんですよ」と高野さんは言う。
「ここに並べているものたちはすべて、私たちにとっての憧れなんです」高野さん夫妻が大切にしている「もの」や「人」への尊敬から、じっくり進化を続けているお店だ。
SPICA 雑貨店
スピカ ザッカテン
住所 | 別府市立田町1−34 |
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営業時間 | 10:00〜17:00 |
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休日 | 水・木曜 |
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電話番号 | 090-9476-0656 |
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駐車場 | 5台 |
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オススメ 商品 | 竹かごのバッグ |
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別府にうまれた新しい惑星
永石通りの五叉路の一角。木造建築でガラス張りのお店に思わず見惚れて、足を止めた。瓦屋根の下には「スパイス食堂 クーポノス」と書かれた大きな看板。
中に入ると、何だか異世界の香りがする。ターメリック色の壁に、天地があべこべの鏡。どこかの国の女性たちの写真。色とりどりの提灯に、レトロな扇風機やかき氷機。ガラスの青と白、植物の緑。きらきらと日が差し込み、いつか観た映画の中にトリップしたみたいな気分になる。
大学の建築科でまちづくり研究のために訪れて以来、人々に愛されながら、息づくように別府で暮らしてきた園さんと、立命館アジア太平洋大学入学をきっかけに別府に住み始めたベトナム人のフックさん。別府をこよなく愛する2人が出会い、2016年の夏に食堂を始めた。
ここを訪れるのは、観光客はもちろん、留学生やバックパッカー、地元の人たちまで層を問わない。97歳という常連のおじいさんは、今日もアボカドドリンクをごくり。
園さんとフックさん、2人の共通する想いは、年齢、性別、国籍、宗教を問わず、みんなで1つの食卓を囲うということ。それは、別府が培ってきた共同浴場のあり方と通じる。築100年を越える古民家を、地元の大工さんと自分たちで改装し、1つずつ食堂のイメージを組み立てていった。
注文したのは、チキンフォーにサラダとベトナムコーヒーがついたランチセット。米粉でできたフォー麺は色が透き通って、喉ごしがいい。ひよこ豆が乗ったサラダは、たっぷりの野菜が盛られ、彩り豊か。練乳を混ぜたまろやかなコーヒーは、食後にくつろぎの時間を添えてくれる。
園さんとフックさんには役割分担がなく、その時どきで、お互いができることをしている。みんなでごはんを食べるとき、少しずつお裾分けしたり一口もらったりして、語らいとともに胃袋の中に幸せな気持ちが満ちていく。例えるならば、そんな関係性だ。
このお店には、さまざまな土地から自然と食器が集まってくるのだとか。それは今まで世界のどこかで、数え切れない人たちの食事風景を支えてきたお皿やコップたち。「食器が変わったら、作る料理も変わってくる。流動的なものだろうね」
人が食べる行為を建築と捉え、食べ方そのものを提案し続ける園さん。自給自足の村を思い描き、「リブ・イン・ハーモニー(調和の中に暮らす)」という言葉を教えてくれたフックさん。クーポノスという店名は造語で、2人を示す新しい惑星の名前なのだそう。
2人にとって「スパイス」とは、単なる香辛料ではなくて、退屈しない生き方のコツ。人生にちょっとスパイスを加えると、人は元気になったり、癒されたりする。園さんとフックさんの存在こそ、別府のスパイスだ。クーポノスは確かに異空間だけれど、同時にここが別府ということを強烈に感じさせてくれる。2人の料理を食べると、しゃんと息が整って、心がしゃきっとする。ごちそうさまと告げて店を後にすると、ここからどこへでも行けるような気がする。
スパイス食堂 クーポノス
スパイスショクドウ クーポノス
住所 | 別府市千代町11-25 |
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営業時間 | 11:00〜15:00 |
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休日 | 火曜 |
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電話番号 | 0977-75-8145 |
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駐車場 | 2台(お店の斜め向かいにあります) |
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オススメ 商品 | フォーのランチセット(フォー+サラダ+ドリンク)1080円 |
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