昭和レトロを満喫! 女子旅コース

introduction

戦災を免れた別府のまちには、古い建物やお店があちこちに残っています。
まるでタイムスリップしたような風景は、どこを撮っても絵になるところばかり。
友達とわいわい歩いても、1人でのんびり巡っても楽しめる、おすすめコースをご紹介します。

まず最初に訪れていただきたいのは『竹瓦温泉』。
昭和初期の面影を残した建物は、別府のシンボル的存在です。
丸いポストのある風景は、まるで映画のセットのよう。
名物の砂湯もぜひ体験してみてください。

お風呂から上がったら、腹ごしらえ。
レトロな女子旅のランチには、喫茶・軽食のお店『アホロートル』がおすすめ。
大正時代に建てられた風情ある空間と、素材にこだわり手間暇かけたお食事を楽しんで。

お土産を買うなら、ぜひ『SELECT BEPPU』に。
築100年を超える建物の1階は、竹細工や器など別府らしい商品が並ぶセレクトショップ。
2階では、襖に鮮やかな花を描いたアート作品が鑑賞できます。写真撮影もOK!

お泊りは、くつろぎの温泉宿『山田別荘』がおすすめ!
80年以上前に建てられたという、趣のある和風建築とモダンな洋間が融合したお宿です。
露天風呂に入って、ゆっくりと旅の疲れを癒しましょう。

本記事で紹介されているスポット一覧

今も昔も変わらずに

その建物の大きさは想像以上だった。これが竹瓦温泉。せっかくなので、建物の周りも歩いてみることにした。足を踏み入れるのを迷ってしまうくらいひっそりとした横道に入ると、なんだか建物の影に隠れた気分。少し開いた窓からは高い天井が見え、楽しそうな人の声がこだましている。地面の隙間からは湯気がもくもく立ち昇っていた。

そのうちに見えてきた、小さいけれど立派な入り口はどうやら昔のもののよう。建物の角に立ち、両方の入り口を眺めてみた。

旅人とまちの人を迎え入れる温泉は、今も昔も変わらずここにある。

 

 

>まちのおフロにおじゃまします<

 

威風堂々。

どっしりそびえ立つ豪壮な建物。

お寺? 旅館?

いいえ、ここはみんなが集う公共の湯。

「竹瓦温泉」へようこそ。

 

 

「はい、いらっしゃい」

番台のお母さんの笑顔が迎えてくれた。

「お風呂は100円よ。うちは洗面器しかないからね。タオルは持ってる?」差し出されたタオルにはレトロなイラストがプリントされている。旅の思い出にと1枚購入した。

「お風呂はのれんの奥よ。ごゆっくりしていってね」

広間に足を踏み入れたら、時が止まっているような静かな空間が広がっていた。チクタクチクタクと、古時計がゆっくりと時をすすめる。「時間はあるよ。ゆっくり休んでいきなさい」って言ってくれているみたい。

 

 

えんじ色ののれんと日本髪の女性のシルエットが掲げられているのが女湯の入り口。

 

 

のれんをくぐったとたんに、温泉の気配をしっかりと感じる。ほのかな温かさを帯びた空気はしっとりとやわらかくて、なんだか固まっていた心がほぐれていくようだった。脱衣所と浴室の間には、壁も扉もない。脱衣所の手すりから身を乗り出すと、U字型の浴槽が見えた。

かかり湯で体にお湯の熱さを教えて、そろそろと身を沈める。手足を広げてグーッと背伸びをしたら思わず声が出てしまった。極楽極楽……。

 

 

吹き抜けの高い天井を見上げながら、ぼーっとお湯に沈んでいると「気持ちいいかい?」とおばあちゃんの声。

「ここのお湯はやわくてよかろ。もう何十年も通いよる」とニッコリ笑って、昔話のはじまりはじまり。かわいいおばあちゃんともっとゆっくりお話ししたかったけれど、体はすでにのぼせる直前。

「ごゆっくり」

浴室を後にすると、ほてった体を脱衣所にしつらえられたベンチにあずけて、ひと休み。

長い間使い込まれたあめ色のロッカーとまんまる鏡がとても愛らしかった。

 

<竹瓦温泉の入り方>

その1、 用具はイスと洗面器のみ

     アメニティはご自身で

 

その2、 脱衣所入口のドアは開いたまま

     気になる方は奥の方へ

 

その3、 入浴前に下半身を綺麗に洗うこと

 

その4、 湯船のふちに腰かけない

 

その5、 源泉温度は少々熱め

     ぬる湯好きの方は壁際の水道そばがおすすめ

 

その6、 湯あがりは広い休憩所でのんびりと

 

みんなの温泉です。

ルールを守って気持ちよく、楽しく入りましょう。

 

 

 

「ああ、いいお湯やった」

髪をふきふき、ほんのり赤ら顔したおじいちゃんのお風呂セットを拝見。くたくたのナイロン袋の中には使い込まれた洗面器とボディタオル、そして大きな石鹸箱。

「こりゃ牛乳の石鹸じゃ。こんな大きな石鹸を使いようもんはおらんじゃろう。やっぱぁこれがいい」牛乳の石鹸もしあわせものだ。

もう1つ、ナイロン袋につながれた定期入れ。差し込まれた紙には1〜180までの数字と赤○印。

「これはな、年とるともらえるお風呂の券じゃ。ええじゃろ」

ハッハッハとちょっぴり自慢気なおじいちゃん。180回分ですか?と尋ねると

「そう、180『日』分」

そうか、ここは湯のまち別府。温泉は毎日のお風呂だ。なんて贅沢。うらやましい!

 

 

竹瓦温泉

タケガワラオンセン

住所別府市元町16-23
営業時間普通湯 6:30〜22:30
砂湯 8:00〜22:30(最終受付21:30 ※混雑状況により早まることもあり)
休日普通湯 なし(※年末清掃による臨時休館あり)/砂湯 第3水曜(祝日の場合翌日) 
電話番号0977-23-1585
駐車場なし
オススメ
商品
普通湯 100円/砂湯 1030円

誰にも話したことないけれど

 

桜町通り沿いに置かれた喫茶店の看板。その矢印の中に書かれた「徒歩 左へ26歩」が妙に気になって、数えながら歩いてみた。20、21、22……あっ、本当に26歩で『アホロートル』の入り口にたどり着いた。

 

 

 

趣のある木造の建物の戸を思い切って開けてみたけれど、誰もいないようす。2階から物音が聞こえてきたので、上がってみることにした。

 

 

スリッパに履き替えて、よく手入れされた木の階段を滑らないようにそろそろと上りきると、キッチンからご主人と奥さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい。ご旅行ですか?」

そのひとことで緊張がほぐれた。本やレコードに囲まれたカウンター席に座り、ゆっくりと店内を見回してみる。

まるで時間の流れが止まったように感じるこの建物は、築100年近い元貸席なのだという。

 

 

古い建物にはいろんな記憶が蓄積されている。別府生まれの映画監督が子ども時代に住んでいたり、昔ここで暮らしていたというおばあさんが訪ねてきたりしたこともあるのだそう。そんなとき、「ここが喫茶店でよかった。久しぶりに帰って来られた」と声をかけてもらえることもあるのだとか。ふと窓の外を見ると、中庭には大きな木がのびのびと葉を揺らしている。ここで過ごしたたくさんの人たちの記憶の中にも、きっとあの木はあるのだろう。

 

 

上品な佇まいの奥さんに、ちょっと寡黙で雰囲気のあるご主人。2人はお客さんと談笑しながら、付け合わせのレタスをちぎったり、皿にごはんをよそったりしている。レコードプレーヤーから流れてくる心地よいクラシック音楽を聴きながら、注文したカレーができあがるまでを楽しく眺めていた。

 

 

「おまたせしました」

目の前に並べられたのは、じっくり炒めた玉ねぎと12種類のスパイスを挽いて煮込んでいるというインド風カレーと、セットのサラダとヨーグルト。カレーにはとり肉が入っていて、まろやかながら後から辛みが効いてくる。お米は二十穀米を使っているそうで、もっちりとした噛みごたえだ。

 

 

食後に注文したコーヒーを待っている合間に、奥さんが「冷蔵庫が置いてあるスペース、もともと何だったかわかる? 実は床の間だったのよ」と教えてくれた。「そんなにいろいろ考えてやってるわけやないんよ」と、ご主人が飄々と付け加える。「ここにあるものを活かす。手を入れすぎていないところがいいんやないかな」。

 

 

「その日、その場所に居合わせたお客さんによって、その日だけの物語ができるのよ。たまたま隣に座ったお客さんが、別府の歴史にとても詳しい人だったりね」と奥さんは微笑む。隣でコーヒーを飲んでいる男性は、長らく地元の新聞記者をしていたという。「ここは不定休なんだけど、通うと休みの日も感覚でわかってくるんですよ」と、常連さんらしいさすがの一言。

 

「私に話しかけているようでいて、実は、自分で自分に何かを言い聞かせているようなお客さんもいるわ」奥さんは、お客さんとの会話をそう感じることもあるのだとか。お客さんが目の前でコーヒーを飲みながら「こんなの、誰にも話したことないけれど……」と口を開いてくれる。そして「どうしてこんな話しちゃったんだろう」と言って帰っていくのだとか。

 

 

コーヒーを飲み終えると「よかったら」と、ご主人が一部屋ずつ案内してくれた。洋間にある木のテーブルは大工さんが仕立ててくれたそうだ。「これは幸運のお守り」とご主人が指差した木目の穴には、中国の硬貨が埋め込まれている。

また、階段近くにあるレコードはお客さんからのいただき物だそうで、1枚1枚に丁寧な字で解説が添えられている。「私たちには、人生における先生がたくさんいらっしゃるのよ」と奥さん。

なぜだか心を受け入れてくれるような心地よさを感じるのは、築100年の建物が持つ魅力だけではなく、夫婦がちょうどいい距離感で、ここに訪れる人々のいろいろな物語を引き出してくれるからなのかもしれない。そんな2人に会いたくて、ここを訪ねる人も多いのだろう。

 

アホロートル

アホロートル

住所別府市楠町7-8
営業時間10:00〜17:00
休日不定休
電話番号0977-23-2876
駐車場なし
オススメ
商品
インド風カレー(ミニサラダ・ヨーグルト付)850円

出会いが交差する場所

西法寺通りをしばらく歩いていると、大きな藍色ののれんを掲げた古い長屋が見えてきた。

そこに染め抜かれた「別府のまちの、ミュージアムショップ。」というキャッチコピーに惹かれて、中に入ってみることにした。

 

 

「ここは築110年を超える長屋の1室です。長い間空き家になっていたのですが、今は1階がセレクトショップ、2階にはアーティストのふすま絵を展示する空間として活用しています」と教えてくれたのは、このお店『SELECT BEPPU』を運営しているNPO法人BEPPU PROJECTの利光さん。

ここは約10年前、別府市中心市街地の活性化を目的に空き家をリノベーションし、工房やギャラリーなどさまざまな活動や発信のための場として活用するプロジェクトの一環で生まれた。のれんに書かれた言葉の意味を尋ねると、多様な文化や生活が混在する別府の町を美術館に見立てたとき、それに関連する商品や情報が集まるミュージアムショップのような存在であることがこのお店のコンセプトなのだと言う。

 

店内に入ると、木材がむきだしになった天井と白い壁に囲まれた空間にたくさんの商品が並んでいる。商品をゆっくり眺めてみると、古布を使った竹細工のバッグ、湯けむりをモチーフにした一輪挿し、別府の鳥瞰図をあしらった型染めの手ぬぐいなど、別府をテーマにしたものばかり。クラフト商品や工芸品など、手仕事で作られたものが中心なので、1つひとつ手に取って見比べながらお気に入りを探す。

 

 

古民家の風情が残る急な階段を上ると、2階には畳の部屋が2間。奥の部屋に進み、ふすまを閉じようと振り返ると、鮮やかなピンクの花の絵が目に飛び込んだ。この作品は、台湾の伝統的なテキスタイルをモチーフにしているのだそう。用意された座布団に座って、ゆっくり作品に向き合っていると、だんだん気持ちがほぐれていく。エキゾチックな花の絵は、斬新なのになぜか日本家屋によく馴染み、すりガラス越しの柔らかな光を受けて静かな空間を創りだしていた。

 

 

「観光客の方からおすすめの飲食店や温泉の情報を聞かれたり、近所にある美容室のお客様が待ち時間に立ち寄ってくれたりすることもあります。ここは、作り手とお客様と町の三者が出会う場所。ここを訪れたことで別府に興味を持って、町をめぐってもらえたたらいいなと思っています」と利光さん。

 

すると、1階の木戸が勢いよく開いた。「こんにちは」と元気な声の主は、常連さんらしい地元のおじさんだった。こうやってこのお店は、地域の人も旅行者も関係なく、訪れる全ての人びとを受け入れてきたのだろう。そして、これからも変わらずに人が交差する風景を見守り続けるに違いない。

SELECT BEPPU

セレクトベップ

住所別府市中央町9-34
営業時間11:00〜18:00
休日火曜(祝日は営業)
電話番号0977-80-7226
駐車場なし

女将を見守る桜の木

別府石*が積み重なった塀から古い屋敷を見つめていると、「こんにちは」と小さな女の子に声を掛けられた。挨拶を返し、玄関へと続く砂利道を進む。春にはさぞかし綺麗な花が咲くであろう、桜の木はアーチのように枝を伸ばしている。タイル貼りの玄関から上がり「こんにちは」と誰もいないフロントに声を掛けると、先ほどの女の子が座っている。少し戸惑いながら温泉に入りたいと伝えると、すぐに女将がやって来て浴室へと案内してくれた。

 

 

黒光りする廊下を進んで風呂場の引き戸を引くと、思いがけず明るい光が漏れ出して来る。風にそよぐ庭木を眺めながら湯船に浸かると、やわらかい湯気が次第に空気に溶けて温かく周りを包んでいく。さわさわという葉ずれの音に混ざって、子どもたちの賑やかな声が聞こえてくる。和やかな笑い声を聞いていると、なんだか懐かしいような、おばあちゃんの家に遊びに来たときのような気持ちになった。

 

 

山田別荘を訪れるお客様を最初に通すという洋間で、湯あがりの体を休ませていると「いかがでした?」と女将。建物について尋ねると、昔の写真や新聞記事が詰まったスクラップブックを見せてくれた。女将の曾おじいさんは北海道で働いていて、温暖な気候と温泉が気に入ってよく別府を訪れていた。寒い所での生活で体調を崩した曾おばあさんのためにこの別荘を建てたのだという。その後「くつろぎの温泉宿 山田別荘」を営むようになったそうだ。

「古い建物が良いってみなさん言ってくれますが、古いだけあって冬場寒かったり、大変なこともあるんですよ」と笑いながら言う。

 

 

築80年以上の建物を維持し続けるのは、苦労もあり悩んだ時期もあったそうだ。そんなとき、この建物の歴史や残すことの意味を教えてくれた人がいて、考えを改めたという。

「曾おじいさんがこの別荘を建てたときも、当時の最先端のものを集めて作ったんだから、今の時代の便利なものを取り入れて、残すべきところは残すっていう選別が少しずつ出来るようになってきたかな。普段と違う時間の流れ方を感じられる空間に出来たら良いな」という女将にお礼を告げ、靴を履くために腰掛けた土間の後ろから、かわいい姉妹がお見送りしてくれた。「バイバイ」小さな手を振る女の子と一緒に、桜の木も枝先を揺らしてくれた。

 

 

*別府石…鶴見岳の噴火による土石流で運ばれてきた岩石

くつろぎの温泉宿 山田別荘

クツロギノオンセンヤド ヤマダベッソウ

住所別府市北浜3-2-18
営業時間10:00〜15:00
(※立ち寄り湯。入浴ができない場合があるので電話で確認を)
休日なし
電話番号0977-24-2121
駐車場7台
オススメ
商品
立ち寄り湯 大人500円/子ども250円