密やかに輝く女性でありたい

靴を脱ぎ、スリッパに履き替えてドアを開けると、かすかなコーヒーと木の香り。「いらっしゃい、外は寒かったでしょう」と割烹着姿の店主が迎えてくれた。今朝の新聞のことや、最近食べて美味しかったもののことなど、コーヒーを淹れてもらいながら会話が楽しく弾む。

 

 

店主の柴田初子さんは、今でこそ色々としゃべりかけてくれるが、昔は正反対だったのだそう。「小さいころ、体が弱い私を母はとても守ってくれた。その反面、私は自分の意思で物事を決めたり、話したり、という経験がなかったのね」。柴田さんが大きく変わったのは、21歳のころ。「母が亡くなってね。これからどうやって生きていこうと途方にくれた。あまりに自分の言葉で話すということが出来なかったから、特訓をしようと思ったの」東京に行き、人前でスピーチをする練習をする練習などを行う学校に通い、1年程経ったころ「柴田さんはもう大丈夫だよ」と先生に言われたのだという。

 

<母の物差しを使って、三味線の指さばきの練習>

 

その後、別府に帰り結婚し、手芸などの習い事を始めた。30代のころ、自宅のガレージを改装し、知人の作品を販売する「蔵ギャラリー&喫茶 しばた」をオープンさせた。

 

 

「でもお店をオープンしたばかりのときは、毎日『今日はお客様が来ませんように』と祈っていたし、ドアが開くとびくびくしてね。何を話したらいいのかしらって、いつも怖かった。喫茶の経験もなかったしね」そんな柴田さんに「コーヒーを上手く淹れることが出来なかったら、出前をとればいいんだから」と優しい言葉を掛けてくれるお客さんも多く、みんなに支えられ今までやってきたのだとか。「今ではこっちから捕まえてしゃべっちゃうわね。こんなにカウンターから出てくる店主はいないって、お客さんに言われちゃうくらい」人の意見を素直に聞き、前向きな気持ちがあったら人は変われるものね、と笑う。

 

 

今まで自分がやってきたことを振り返ってみたのだと、1枚の紙を見せてくれた。20代から70代まで、年代毎に綴られた習い事は20を超えていた。「やったことがないことにチャレンジするのが好きね。常にアンテナを張り巡らせているし、生涯現役で人生を楽しんでいきたい。密やかに、輝くような魅力を持つ女性になりたいわね」

 

<59歳のときに、お孫さんと一緒にバレエの初舞台に立ったのだそう>

 

『旅手帖beppu』が縁で、今では全国のお客さんと文通を楽しんでいるのよ、と話す柴田さんの目は、まるで少女のようにキラキラと輝いていた。

蔵ギャラリー&喫茶 しばた

クラギャラリー キッサ シバタ

住所別府市駅前本町1-15
営業時間11:00〜17:30
休日日曜・祝日
電話番号0977-21-6159
駐車場2台
オススメ
商品
ホットコーヒー 450円