ビルの上にすっくと建つ「別府タワー」はカラーでのテレビ放送が始まる少し前、東京タワーよりも先に建てられた。日本全体に背の高い建物が少なく「高層タワー」と呼ばれるものが別府タワーを含めて3つしかなかった当時、全国各地から毎日訪れる修学旅行生や団体の観光客が行列を作り、次々と展望台へと吸い込まれていったそうだ。

「あんなに毎日たくさんの人が入っていくのは、上に何かいいものがあるに違いないと思っていたんだ」というのは、途中立ち寄ったお店のご主人。

観光客の列に紛れ、どきどきしながらエレベーターに乗り込んだけれど、展望台には持っているおこづかいでは入れない。悲しいような、悔しいような気持ちで乗った下りのエレベーターが止まった階には、家族へのお土産を選ぶうれしそうなたくさんの人。「いいとこ見つけた」次の日も友達を誘い、観光客の合間を縫って端から端までお土産店のパトロール。そんなことを続けるうちに握り締めたおこづかいはすっかりどこかへ行ってしまった。「展望台には行ったことないよ。だけどみんなが知らない別府タワーの秘密を僕は知ってるんだ」

水色の額縁に収まった波の入り江やこんもりとした緑の山々。展望台の海を望む席に腰掛け、毎日のように通ったご主人が知っているという秘密のことを考えながら、まちを見下ろす。
