子宝の湯

入り組んだ路地を抜けると、三叉路のまん中にそびえ立つ1本のバナナの木に出会った。その持ち主は、アーチ型の窓に瓦屋根をかぶった子宝の湯「寿温泉」。

 

 

洗面器を持ったおじいちゃんと日傘を差したおばさんが、建物の前のベンチに並んで腰掛けている。「12時から15時まではお昼休みなんよ」とおばさん。時計を見ると、15時まであと少し。

通りの向こうからお母さんが走って来た。「お待たせしてごめんなさいね」番台に座ったお母さんに100円を渡して室内へ上がる。「ごゆっくりね」と見送られて奥へ進む。

 

 

 

「女湯」と書かれたドアをそっと開けると、目に飛び込んできたのは、窓いっぱいに射し込む透明な光と綺麗なミントグリーンの壁。その開放的で不思議な空間に、たちまち気分は上昇! 階段を降り、白いロッカーの前へ進むと視界はさらに広がった。

 

 

 

大正時代築の名残を留めるアーチ型の窓と、何度も塗り直されたであろうペンキ塗りの壁を見ていると、この温泉が大切にされていることが実感できた。

こぢんまりした浴槽におばあちゃんたちが賑やかに浸っている。こんにちは、と声を掛けると、すぐに仲間に加えてくれた。石鹸を持っていないことを話すと、「ほんならこれ使いよ。私たちはそろそろあがるき、その辺に置いとってくれたらいいわ」と言って、石鹸を置いてあがってしまった。

 

 

教えてもらったぬるめの場所からゆっくり体を浸すと、じんわりとお湯の熱さが沁みてくる。鉄分が多く、冷え症に効果があるといわれるこのお湯は、通称“子宝の湯”。昔は女湯しかなかったという。当時は浴槽に渡した丸太につかまって腰を温める独特の入浴法があり、そのおかげか、ここに通うと子どもを授かる人が多かったのだそうだ。

 

「寿温泉」の入り方

 

その1、用具はイスと洗面器のみ。アメニティはご自身で

その2、入浴前に体を綺麗に洗うこと

その3、ぬる湯好みの方には、15時のオープン時がおすすめ

その4、源泉のお湯は、あがり湯以外には使わない

その5、床板を濡らさないように気をつけましょう

その6、「寿温泉」は飲泉できません

 

みんなの温泉です。

ルールを守って気持ち良く、楽しく入りましょう。

 

 

お風呂からにこやかな笑顔であがってきた、寿温泉歴約15年というお母さんは北海道出身。別府に来た当初は、別府の温泉スタイルに驚いたという。今ではすっかり慣れて、家族もみんなこの温泉に通っているのだそう。「何といっても気楽に入れるのがいいんよ。小さい男の子たちなんかはここからパンツ一丁で帰ったりするんよ」と笑う。

 

 

脱衣所を出てベンチに腰掛けると、次々に常連さんたちがやってきた。「ごゆっくりしていきなさいね」と声を掛けてくれて、楽しそうにお風呂へ入っていく。「初めは知らない方ばかりだったんだけど、今はみんな顔見知り」と常連さんたちを笑顔で見送る番台のお母さんに挨拶をして、寿温泉を後にした。外に出て、もう一度辺りを見渡してみると、路地裏に佇む温泉の周りには、古いものと新しいものが混ざり合ったまちなみがあった。大正生まれのレトロな温泉は相も変わらず、変わりゆくまちの様子を見つめているようだ。

 

−今日得たもの−

番台さんの笑顔

おばあちゃんに借りた石鹸

地域の人たちの温かさ

寿温泉

コトブキオンセン

住所別府市楠町11-15
営業時間8:00〜12:00/15:00〜22:00
休日毎月10日・25日
電話番号なし
駐車場なし
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入湯料 100円