体がほしがる薬膳コース

湯のまち別府には、温泉の蒸気で食材を蒸す調理法の「地獄蒸し」という文化が古くから根付いている。一般的に言う地獄釜は100℃の蒸気が噴いているが、近年、別府市出身で世界中の蒸し料理の研究をする平山一政先生が「低温蒸し」を提唱。これにいち早く注目したのが、中国料理のシェフ、前田 進一郎さんだった。「長年勤めていたホテルでも低温蒸し料理を提供していたのですが、鉄輪温泉の蒸気で低温スチームした料理は全然別物に感じました。それで、鉄輪で『蒸しくらぶ』を主宰されている安波治子さんの研究会に参加し、蒸気の性質や食材ごとの適温を勉強し、オープンさせたのがここ『蒸土茶楼』です」。

 

 

昼も夜も、コース料理のみ。「蒸土茶楼」の料理の要となるのが、特注の地獄釜だ。別府の地獄釜の多くは石造りだけれど、ここの釜はステンレス加工。「蒸気工学を応用した釜なんです。源泉は、保湿効果があるメタケイ酸が鉄輪で最も多く含まれている『温泉閣』さんから引いています。そのミネラルを含んだ蒸気を、釜に取り付ける専用の部品で細分化させてシルキースチーム作り、温度を調整して食材を蒸していきます」。食材によって45〜95℃の間に適温があるとのことで、「鶏肉は65℃、アナゴは42℃…」と、すらすら数字を暗誦するのを聞いていると、シェフが科学者のように見えてくる。ちょうど、釜の中では名物料理の「汽鍋(チーコー)」を作っている最中。水を1滴も使わず、蒸気だけで素材の旨みを凝縮したスープができあがるそうだ。

 

 

前田シェフは、もうひとつ「50℃洗い」も取り入れている。どんな食材もまずは50℃のお湯で汚れやアクを取り除き、それから蒸すのだという。「刺身も洗いますよ。50℃では煮えないんです。逆に余分な脂がとれて、すっきりとした味になりますよ。これと低温スチームを合わせれば、栄養価と旨みを閉じ込めた料理となります」ちなみに、野菜は大分県産のものを中心に、固定種も使っているらしい。

低温スチームと50℃洗いを取り入れた料理を、ランチのコース料理でいただく。綺麗なお皿に盛り付けられた、色とりどりの食材を使ったメニューは、見ているだけでもワクワクする。ずいぶん手間暇がかかっていることは容易に想像できるが「これが自分のスタンダード。凝った料理だと言われますが、あたりまえのことをしているだけなんですよ」と、前田シェフ。自らの料理を「自由律料理」と呼ぶ薬膳コースの1品1品が、心地よい音楽のように、体に沁み入る。地獄釜で低温スチームされていた汽鍋は、滋味深く優しい味がした。「蒸気が生きているので、毎日味が違うんです」。

 


ジビエ料理、低温スチームドライなど、研究中の料理もたくさんあるらしい。自由に、自然に、今後も進化していく前田シェフの料理が楽しみだ。品数も多く、デザートまでいただくとお腹がいっぱいになったけれど、夕方にはきっちりお腹の虫が鳴いた。薬膳で体のめぐりが良くなったおかげかもしれない。

蒸土茶楼

ムシチャロウ

住所別府市鉄輪風呂本5組
営業時間11:00-14:30/18:00-21:00
休日水曜、第1・3木曜
電話番号0977-85-7775
駐車場5台
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ランチ 2500円〜