本物をやりたかったんよね

「水は一度、沸かしきって。ぐらぐらがおさまる、沸点から少し低めの87℃から92℃になるまで待つ。これがコツね」。ドリッパーにたっぷり入った挽き豆に、ぽん、ぽんとお湯を垂らし、蒸らす。2回目は高い位置から。空気を含ませ、円を描くように注いでいく。仕上げの3回目はラフに。カウンター席に座ると、マスターの松木さんがお客さんに、コーヒーの淹れ方を語っていた。

 

 

別府公園にほど近い、住宅街のマンションの一角にある「グリーンスポット」は、別府に約40年前からある隠れ家的喫茶店。一等級豆のコーヒーを提供する、知る人ぞ知る名店だ。店内には、世界各国から集まった焙煎豆の袋が所狭しと積み上げられている。

 

 

香り高いブラジリアンブレンド、たっぷりのバターが溶け込んだバターコーヒー、生クリームを流し込んだカプチーノ。先客の注文したコーヒーができるまでを、うっとりと眺めていると、松木さんが「食べてみて」と、コーヒー豆を2粒、手のひらに乗せてくれた。突然のことで驚いたけれど、豆の表面は輝いていて、ゆっくり口に含むと、ぽりぽりと香ばしい。「抽出すると、この脂は消えるからね。それが新鮮な豆の証拠」。

 

 

 

やがて「琥珀の女王」と名付けられたアイスコーヒーがやってきた。原点は、16世紀後半にオランダで考えられたクイーンズコーヒーだ。準備に8時間、さらに水出しでの抽出には48時間かかるという。コーヒーの上に乗せられた生クリームは濃度が高く、二層に分かれて美しい。グラスを傾けると、バランスよく流れ込んでくるクリームとコーヒーが口の中で混ざり合う。何とも上品でまろやかな味わい。

 

 

松木さんは、大学の理工学部を出て、自動車会社で開発の仕事をしていたという。そう言えば、松木さんのお話には具体的な数値がよく出てくる。まるで理科の先生みたいだ。「僕がやっているのは、基本形を伝えることだけ」。探究心の強い松木さんの長年の研究に裏付けられた、確かなこだわり。それがコーヒーの深みとなって滲み出ているのだ。

 

 

 

開店してから最初の5年間はあえて焙煎機を買わず、手作業で焙煎していたのだとか。「あられ焼き用のステンレス製の網を使ってね、夜中までずっと。冬でも半袖でね」。なぜそんなに手間をかけていたのかを尋ねると「この豆を何分間、どういう加減で焼いたらどんな味になるのか。実際に見極めたかったの。性分だよね」と、さすがの答え。

 

 

「普通のコーヒーが250円だった時代から『琥珀の女王』を700円っていう、びっくりするくらい高い値段で始めたんよ」本物をやりたかったんよね、と松木さんは真摯に話してくれる。

毎晩遅くまで豆を焼いていると、軒先まで豊かな香りが漂う。新聞屋さんが「あそこの前を通ると、すごくいい香りがするよ」と言って、徐々に評判が広まっていったのだとか。

 

 

松木さんは「公園一帯に広がる森の、緑の中の小さな点」と、このお店を表現する。最近では、元々常連さんだった朝倉さんご夫妻にバトンを渡し、少しずつ世代交代をしているという。松木さんご夫妻の極めた「点」が次の世代につながり、線をなしてゆく。

珈琲専科 グリーンスポット

コーヒーセンカ グリーンスポット

住所別府市西野口15-10塩屋コーポ1F
営業時間10:30〜21:00
休日火曜
電話番号0977-25-2079
駐車場9台
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琥珀の女王 760円