「『ママさん』だと、私のことを呼ばれている気がしないの。みんな『リンちゃん』って呼んでくれるわ」中国の東北地方出身のリンさんは、18年前に留学生として日本に来て以来、別府で暮らしている。
中国では「香」という漢字を「料理がおいしそう」という意味で使うのだそう。それにリンさんの名前から音をとって「香凜」。店をオープンしたのは2014年。日本人にも覚えやすくて、音も、漢字も気に入っているのだとか。
子どもの頃はおばあちゃんと暮らしていたというリンさん。お手伝いをするうちに、中国の家庭料理である餃子のレシピを自然と覚えたのだそう。中国の餃子の特徴は、何と言っても餡となる具材のバリエーションの豊富さ。日替わりの餃子を存分に楽しみたい常連さんは、みんな「おまかせで」と注文する。
香凛では、注文を聞いてから餃子を作り始める。ぽってりとした皮を丸く伸ばし、そこに今日の餡、ラム肉とセロリを乗せて手早く包む。肉汁がたっぷり入っているから、油を敷かずに蒸し焼きにする。「焼き目を見せないのがいいの」「化学調味料を使っていないから、最初は薄味だと思うかもしれないけれど、食べていくうちにクセになるのよ」と、手を動かしながら、たくさんのこだわりを教えてくれた。いちばんのこだわりは、全ての料理に入っているという、おばあちゃん直伝の「秘密のスープ」。
餃子が焼きあがるのを待つ間に、自家製ラー油が入ったビンを見せてもらった。新鮮な唐辛子を自然乾燥させて漬け込むと、つやと透明感が増す。香りや色、味、辛みをきちんと出すために4種類の唐辛子を使っているのだそう。
黒酢とラー油につけて、ぱくりと一口。口の中にみずみずしさとうまみがじゅわっと広がる。野菜がたっぷり入っているから、しっかり食べても、胃がもたれることなく、翌日の朝まで爽快感を得られるのが特徴だという。
「リンちゃん、家の畑で採れたけん、いっぺん使ってみて」と、常連のお客さんが空芯菜を持って店に訪れた。香凛では、リクエストした食材を餃子にしてもらえる。「最初は餃子も1種類しかなかったんだけど、トマトやエビ、豆腐なんかも、お客さんが餃子にしたいっていうからやってみたの」と、さらりと言うが、それはリンさんがお客さんの好みや食材の相性を考え抜いて作った、ここでしか味わえない愛情のこもった特別な餃子だ。絶対にこれじゃないとだめというわけではなく、その日に出会ったものを、料理に織り交ぜていく。それが香凜流のメニューの作り方。すべての原点は、子どもの頃、家族やいとこたちが集まり、毎日餃子を作って食べていた記憶だという。
「リンちゃん、ええかえ」と、また1人常連さんが来店した。自分でカウンター奥のサーバーから生ビールを注ぎ、カウンターに腰掛ける。ここは店主とお客さんが、一緒に育っていくお店。そんな気ままさが心地よい。「『餃子は具材だけじゃなくて、食べた人みんなの幸せを包むのよ』って、おばあちゃんがいつも言っていたのが、最近になってようやくわかってきたの」
お休みの日には大好きな歌を歌ったり、ピアノを弾いたり、中国の民族舞踊を教えたりしているというリンさんは「私にとって日本とは、別府のこと」と微笑む。まちのみんなに愛される、別府人そのものだ。
住所 | 別府市元町10-1 |
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営業時間 | 18:30〜23:00 |
休日 | 不定 |
電話番号 | 090-9589-9545 |
駐車場 | なし |
オススメ 商品 | 手作り餃子1つ140円〜 |