地域の宝

「明後日は24日やけん、中浜地蔵尊のお祭りの日や」と、近所にある「桜カメラ」の店主・高市さんが言っていたのを思い出し、商店街を訪れてみた。「来るのが遅いわ、もう完売近いで」高市さんの声に目を向けると、ワゴンの上にはお祭り用に作られた中浜地蔵尊煎餅が少しだけ並んでいた。時計を見ると、まだ10時半。今月はいつもより売れ行きが早いのだそう。商店街のお母さんたちが振る舞ってくれるお茶とお煎餅を頂きながらお話を聞いていると、11時からあげられるお経に合わせて、続々と人が訪れてきた。

 

 

別府で初めて出来たというアーケード街「楠銀天街」。その昔、この辺りは多くの人で賑わい、別府の人は「おまちへ行く」と言って訪れていたのだそう。時代が変わり、段々と寂しくなっていく様子に胸を痛めた近所の鮮魚店を営む山田さんは、隣の呉服店を営む豊島さんと、この中浜地蔵尊を守っていこうと話し合った。地域の人々で協力し合い、商店街側の空き店舗だった場所を休憩所にして、毎月24日のお祭りが始まった。毎朝、高市さんがシャッターを開け、夜に山田さんが閉める。

 

<近所の鮮魚店を営む山田さん>

 

1日2回の掃除は近所に住む人たちが交代で行う。1日も欠かすことなく大切にされてきた地蔵尊は、地域の宝なのだろう。

 

 

 

<楠銀天街の昔の姿を、写真や絵はがきで見ることが出来る>

 

集会所のスペースには、この辺りの昔の写真が高市さんの手によって飾られていた。「若いうちに別府を離れて、定年になって帰ってきた人が見たら、懐かしく思うやろ。昔に比べると、この辺りも段々と寂しくなってきた。生き字引みたいな人は、いなくなっていくんよ。これはもう仕方ないことや。言葉か写真で残していくしかないんよ」

地蔵尊の前の曲がりくねった通りは、遠い昔は波打ち際だったという。地蔵尊がいつからここにあるのかは、誰にもわからない。地域の人に交じり、お経に耳を傾け目を瞑る。澄んだ空気が頬を撫でていった。

中浜地蔵尊

ナカハマジゾウソン

住所別府市千代町中浜地蔵尊
電話番号0977-22-1712(山田鮮魚店)
駐車場なし