来てくれてありがとう、の気持ち

午後6時のミュージックサイレンが別府に夜の訪れを知らせる頃。ソルパセオ銀座商店街を歩いていると、立派な龍の絵を掲げたお店を見つけた。

 

 

カウンターの上には、手書きのお品書きが並ぶ。何を食べようか迷っていると、カウンターのなかから髪を結わえた女性が笑顔で「今ちょうど焼豚を仕込んでるのよ」。ならばと「自家製焼豚」を注文。厨房から聞こえてくる、じゅうじゅうと食欲をそそる音に、夕飯を楽しみに待っていた子どもの頃を思い出す。

 

 

目の前に現れた焼豚は、断面がつやりと光る。口に入れるとやわらかく、優しい甘さが広がった。聞けば、ソースに黒こしょうの入った日田の梨ジャムを加えているという。甘みとスパイスが絡み合う、奥深い味わいを楽しむように、もう一度ゆっくりと噛みしめる。

 

 

「みやこ」は長らく、母・知恵子さんがお好み焼きのお店として営業していたが、2015年の改装をきっかけに「これからはあんたの好きなようにしなさい」と娘・真由美さんにバトンタッチをした。現在、知恵子さんはサポートとして母娘2代で厨房に立っている。

「縁があって、県産品を積極的に取り入れるようになったら、だんだん素材に愛着が湧いてきたんです」

 

 

斜め向かいにある、大分の県産品を扱う「Oita Made Shop」のスタッフと知り合ってから、国東しいたけや姫島ひじき、地ダコなど、産地や生産者を意識して素材を選ぶようになったのだという。日田の梨ジャムもそのうちの1つ。「素材の持つ背景やストーリーを知ることで、いろんなアイデアが浮かぶの」と、真由美さんは微笑む。

 

 

店名の由来は、大好きな大衆演劇の「都若丸劇団」から。知恵子さんが座長の都若丸さんを応援するようになって十数年、今では母娘で大ファンなのだとか。店内には流し目の若丸さんの写真が飾られている。

 

 

いろいろあって、お店を続けるのがしんどかったとき。もやもやとした気持ちを抱えながら、いつものように舞台を観に行くと、一心に汗を流し、お客さんを大事にする若丸さんの姿があった。その瞬間、真由美さんに光が射したのだという。「この写真を見ると、あのときの感覚が目に飛び込んでくる。恥ずかしいけど、気分があがるんです」まるで恋する乙女のように、真由美さんははにかみながら言う。

「お酒は飲めないし、人付き合いも苦手」という真由美さん。料理と会話の両立が苦手なことを知恵子さんに指摘され、喧嘩になったこともあった。しかし無理にがんばるのではなく、素材と一緒で、自分がいいなと思う人と付き合うようにすると、自然とお店の空気もよくなったのだとか。

 

 

「母は何事もてきぱきと突っ走る性格で、時代を強く生き抜いてきた人。その点、私は何をするにも、あれこれ悩んじゃう」。そんなとき力をくれるのは、知恵子さんの言う「しょうがないやん」の一言。真由美さんにとっては、お守りみたいな言葉なのだろう。

「お客さんに褒めてもらったメニューこそ、宝物です。大事にしているのは、来てくれてありがとうという気持ち」。1つひとつの料理に、母娘のぬくもりと愛情がたっぷり込められている。次は、大切なあの人と一緒に食べに来よう。

お好み焼きと家庭料理の店 味Dining みやこ

オコノミヤキトカテイリョウリノミセ アジダイニング ミヤコ

住所別府市元町7-4(ソルパセオ別府銀座商店街内)
営業時間18:00~00:00(L.O.23:00)
休日月曜(臨時休業あり)
電話番号0977-23-3223
駐車場なし
オススメ
商品
自家製焼豚 800円/りゅうきゅう 700円/とり天 750円/団子汁 750円