私たちも代々 お客さんも代々

朝見の川沿いを散歩していたら「浜脇モール」と書かれたゲートを見つけた。午後の陽気の中で、話に花を咲かせている温泉あがりであろうおばあちゃんたちに会釈をして通り抜け、モール内にある、一軒のお菓子屋さんに入った。

 

 

店内には、懐かしい和菓子と可愛らしいケーキが並べられている。手作りのパンもあって、どれにしようか迷いながら眺めていると、奥から赤ちゃんを抱いた若い店主が「いらっしゃいませ」と出てきた。「今日は第3土曜だから、パンを焼いてるんですよ」

 

 

2014年にオープンした和洋菓子店「杏樹」の歴史は、永石通りで明治42年に創業した和菓子店「ゴトー饅頭店」までさかのぼる。「ゴトー饅頭店」から数えて4代目にあたる古林やよいさんは、子どもの頃から毎日、おばあちゃん仕込みのつぶあんを食べてから登校するのが日課だったという。5人兄弟の中でも生粋のおばあちゃん子で、家族にも「あんたが将来、継ぐんやろうな」と言われて育った。

 

 

高校を卒業した後は、洋菓子を勉強するために京都へ。いつか別府に帰ってくる予定だったけれど、その「いつか」は思いがけず早くに訪れた。20歳のときに、3代目だったお父さんが亡くなったのだ。「父親は仕事人間で。運動会にも白衣で見に来るんです。かっこよかったなぁ」。それからは、おばあちゃんと先代の下で働いていた職人さんたちに手ほどきを受け、伝統の和菓子とオリジナルの洋菓子が一緒に並ぶお店を構想するようになった。移転が決まったとき、若い人たちにも親しんでもらえるようにと、新たに「杏樹」という名前を付けたのだそう。

 

 

ころんとさつまいもの入った石垣もち、皮をわざと破らせるように薄く包んだやぶれ饅頭、栗饅頭をお赤飯でくるんだいがぐり饅頭。どれもおいしそうだけど、いちばん気になったのは、シンプルな薄茶色のタンサン饅頭。甘酒饅頭と並んで、創業から守り継がれてきたという、この店の名物お菓子だ。これは、おばあちゃんが引退するぎりぎりまで作っていたレシピを受け継いだのだという。

 

 

お客さんの要望で設置されたというイートインスペースで、やよいさんのショコラケーキを食べることにした。ちょうどいいサイズ感の、すっとした出で立ち。

 

 

「洋菓子は基本的に、大きなボウルで材料をかき混ぜて、一気にたくさん作って冷蔵庫で冷やします。和菓子は1つひとつ細かな形をこしらえ蒸し上げます。厨房は暑いし、和菓子と洋菓子では作り方がまるで違う。最初は全然慣れなかったですよ」。でもね、とやよいさんは付け加える。「お買い物や温泉の帰り、ちょっとバスを待つ時間に立ち寄ってきてくれる。私たちも代々。お客さんも代々。そういうのがうれしいんです」。

 

 

お店が持つ2つの名前「杏樹」「ゴトー饅頭店」。それは、大好きだったおばあちゃんとお父さんの技術や愛情を、やよいさんが自分の意志でしっかり受け継いだ、何よりの証。

モールを抜けると、どこからか潮の匂いがした。お土産に買ったタンサン饅頭を片手に、このまま海を見に行こう。

 

杏樹〜ゴトー饅頭店〜

アンジュ ゴトーマンジュウテン

住所別府市浜脇2丁目2-3
営業時間9:00〜18:00
休日日曜
電話番号0977-21-1775
駐車場浜脇モール専用駐車場
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商品
タンサン饅頭 100円