裏銀座通りと呼ばれる、ソルパセオ銀座商店街に沿って伸びる細い裏路地。その角にある「湖月」はランチタイムを過ぎた14時からようやく開店する。カウンターの前に椅子が7つ、舌代と書かれたメニューには「鍋烙」と記された焼き餃子と「ビール」の文字のみ。

注文すると奥の厨房からパチパチ、ジューっと餃子を焼く音が聞こえてくる。鉄の餃子鍋から皿に移されたばかりの焼きたてを自家製のラー油とタレにつけて食べる。手作りの薄い皮には、口の中に入れるとほろりと崩れるほどパリッと焼きあげられている。「メリケン粉も野菜もいいのじゃないと。八百屋にも、高くていいけん一級品持ってくるように言うんよ」。

朝の5時半からご主人の上瀧(こうたき)さんが皮を仕込み、娘さんと2人で出来あがった皮に餡を詰める作業を終えると、昼を過ぎてしまう。だからオープンは14時からということらしい。夕方になると仕事帰りのサラリーマンやお酒を飲みに行く前の腹ごしらえに立ち寄る人が多くなるという。

17歳の時から手伝いを始めたという上瀧さんが娘さんと2人で切り盛りするこのお店は、先代が満州から引き揚げて来たときに始めたそう。「満州で、お祭りのときなんかに作る餃子な、あれを真似して作ったんよ。昭和22年頃、みんな餃子なんて知らん中、始めたっち」

この場所で50年以上、素材にこだわって餃子を作り続けている「湖月」。帰省客や学生時代を別府で過ごした人が「まだあった」と扉を開くことも度々あるという。そんなお客さんを、ずっと変わらず焼餃子とビールだけでもてなす、シンプルで潔いお店だ。