暮らすように楽しむ、モダン湯治

布いっぱいに「柳屋」と染められた暖簾が素敵で、しばらく正対したまま眺める。それをかきわけてワクワクしながら宿に足を踏み入れると、どこか懐かしい雰囲気のエントランスが迎えてくれた。

 

 

黒光りする床や柱、やわらかい光が灯るレトロな照明、アートのように置かれた観葉植物。この場所が辿ってきた永い時間を縦糸に、現代のモダンな感性を横糸に織り合わせたかのような、ロマンチックでどこかぬくもりを感じる空間だ。階段をあがって右側にある談話室で、ちょうどチェックアウトするという人とすれ違った。「どこから来たんですか?」「1人で名古屋から。楽しかったから帰りたくないなあ」。ゆったりとした空気が、自然と知らない人との会話を弾ませてくれる。

 


ここは2013年まで、全国からやって来る人々に愛された「サカエ家」という湯治宿だった。その思いも含めて、残せる部分は残しながら、現代のスタイルに馴染むモダンな湯治宿に生まれ変わったのがこの「柳屋」だ。「湯治宿って、古くて泊まりづらいイメージを持っている方もいらっしゃると思うんです。それを払拭しようと、温泉で癒されたり、地獄釜で料理をしたりという湯治場ならではの要素は残しつつ、宿泊スペースを快適に作り変えました。連泊されるお客さまも多いですよ」。本館には、いかにも湯治宿らしい和室があり、洗面とトイレは共同になっている。4.5畳の小さな部屋には、誰もに邪魔されず1人で過ごしたいときに完璧な空間だ。新館の部屋は畳にベッドを置いた和モダンなスタイル。

 

 

窓の外を覗くと、民家と宿がごったがえした鉄輪の建物群から、もくもくと立ちのぼる無数の湯けむりと、その向こうに霞んでヤングセンターの文字が見える。「景色のいい部屋はないんですか? と聞かれることがあるんですが、これこそいい眺めなんですよね。まさに鉄輪らしい絶景です」。

 

 

やわらかいお湯を湛えた温泉は共同で、24時間浸かりたいだけ浸かることができる。地面から湯気が噴き出す鉄輪のまちに繰り出し、市営温泉巡りができるのも鉄輪の醍醐味。

 


夕食付きの宿泊プランなら隣接したレストラン「Otto e Sette Oita」で地獄蒸しイタリアンを味わうことができるが、本館2階に調理器具や食器も揃ったキッチンがあり、階下の地獄釜を使って自炊するのが湯治宿らしい滞在の仕方。四六時中シュワシュワと湯気がたちのぼる地獄釜のところではいつもお湯が湧いていて、それでいつでもお茶を淹れることもできる。非日常の世界に身を置きながら、気がついたら、暮らすようにこの宿を楽しんでいる自分に気づく。ふと、来た時にすれ違ったお客さんのことを思い出して、同じ言葉をつぶやいた。「帰りたくないなあ」。

柳屋

ヤナギヤ

住所別府市鉄輪井田2組
営業時間IN15:00 OUT10:00
休日なし
電話番号0977-66-4414
駐車場10台
オススメ
商品
1泊2食 1万3770円(税込)〜 / 素泊まり4860円(税込)〜
その他【立ち寄り入浴】地獄釜+温泉入浴+休憩2時間 / 1080円、温泉入浴540円 / 小学生以下270円(税込)