飲食店が立ち並ぶ繁華街、八坂通りにひっそりと佇む「風里」という焼鳥屋。「この狭さがいいって、常連さんが言ってくれます」と店主の里井さんが言う通り、カウンター席と小さな座敷が1つだけのこぢんまりしたお店。「ウチの売りは塩ですから。焼くことで、甘みや旨みが出る塩を使っているんです」。納得がいく塩に出会うまで、様々な天然塩を試したという。研究中にはお客さんがこれはどう？と旅行先で塩を買ってきてくれることもあったそう。選び抜かれた塩が振られた焼鳥は、素材の味を生かし、ジューシーに焼きあげられていた。「もっといいのがあったら変えますけどね」と味の追求に余念がない。

お勤め帰りの男性がカウンターに着くなり、里井さんは「これでいいですか？」と酒瓶を指差す。すっかり好みを把握しているようだ。常連さんの多くは、お酒はおまかせにするという。そうすると、気持ちよく酔えるように里井さんが選んでくれるのだそうだ。

常連さんに習って、さっぱりしたお酒をおまかせで注文すると、奥の棚から要望通りの焼酎を出してくれる。抽象的な要望に答える秘訣を尋ねたら「それはね、僕が好きやけん。自分が飲むのも食べるのも好きやし、食べたいものを作って出しているからね」と答えてくれた。「自分が行きたいって思えるのが基本。来てくれた人に喜んでほしいから、手を抜きたくない」と言い切る里井さん。カウンター越しに、ひとりひとりの様子に気を配りながら美味しいお酒を選んでくれる。常連さんが「自分たちだけの隠れ家にしたい」というのも納得の居心地の良さだ。