別府駅東口を出て、南に向かって高架沿いを少し歩くと「べっぷ駅市場 入口」のネオンサインが見えてくる。市場のなかでも、朝からひっきりなしに地元のお客さんや観光客が訪れ、ひときわ賑わっている惣菜店がある。ショーケースの上に掲げられた看板の『野田商店』の文字は、力強くどこか誇らしげ。
数年前、創業者である野田さん夫妻が引退したあと、後継ぎを探していたところに名乗りを挙げたのが、現在の社長である後藤照弘さん。後藤さんの実家は調味料や惣菜の卸業をしていて、野田商店とお付き合いも長かったのだという。最初は、地元で愛されている「あの野田商店」と、プレッシャーを感じていたのだとか。それでも昔からこの店に勤めている惣菜のスペシャリストたちの姿を見ながら、1つずつ調理を習得していった。
ショーケースに並ぶ惣菜は30種類以上。それを求めて、毎日たくさんのお客さんがやってくる。お盆や年末年始も忙しいけれど、1年でいちばん賑わうのは節分の日。恵方巻きの文化が全国的に浸透したことも手伝って、巻き寿司がよく売れるのだという。真夜中から材料の仕込みをして、ガスコンロを全部使って大きな鍋で米を炊く。力いっぱい巻いても1000本が限界だとか。「朝8時に店を開けても、午前中には売り切れてしまうんよ」。
1960年代、野田商店は別府駅の高架化と同時にオープンした。「駅市場とともに野田商店の歴史がある」と後藤さん。「スーパーやコンビニとは違って、ここでは、魚も肉も野菜も、1つひとつ会話しながら買わんといけん。最初は勇気がいるかもしれんけど、こうやって市場を歩きながら、夕食の献立を考えるのも楽しいんじゃないかな」。毎日の食卓に、普段の買い物に活用してほしいと語ってくれた。
ショーケースに並べられた惣菜たちをじっくり眺め、迷いながらも巻き寿司と玉子焼きをお願いする。ああ、手作りコロッケも美味しそう、と思わず追加。「じゃがいもに、玉ねぎ、人参、ひき肉を混ぜてます。なんてことないコロッケやけど、手間をかけて手作りしてるのが売りやね」。
ショーケースの向こうでてきぱきと働くお母さんたちは、注文を聞かずとも常連さんのお目当の商品はわかっている。「最近、見らんかったな」「ちょっと入院しとったんよ」そんな常連さんとのやりとりを、後藤さんは「温泉文化にも似ている」と言う。「常連のおばちゃんがおしゃべりしている後ろで、観光客とか、初めてのお客さんがじっと見てるんよ。そういう姿を見ると、いつでも声かけてくれてええよ! と、心の中で応援してしまいますね」。
蓋が閉まりきれないほどパックにたっぷりと盛られたおからは、常連客に愛されている惣菜の1つだけれど、独り暮らしの年配者からは量が多いという感想もあるのだとか。「そういうときは冷凍保存を勧めたり、パックあたりの量を個別で対応できるけんね。これからも、量と味は変えないように。昔ながらを維持するのは大変やけど、全体を守りながら柔軟に変えていくというのが、べっぷ駅市場にある野田商店としての目標です」。伝統のある惣菜店だからこそ、長く愛され続けるために、お客さん1人ひとりの要望に応えながら、昔ながらの味を守っているのだ。
べっぷ駅市場の中にある休憩所で、そっと包みを開けてさっそく巻き寿司を頬張る。醤油とだしが色濃く染みたかんぴょうや、巻かないのがこだわりの、しっとりとした玉子焼きなど、いろんな具材の味や食感が、噛めば噛むほど口の中で調和し、甘みが増す。
帰り際、もう一度お店の前を通り、「おいしかったです」お礼を言って、その場を後にした。まだまだ、袋いっぱいに入っている惣菜を手に提げて、別府公園まで歩いてみようかな。
住所 | 別府市中央町6-22 |
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営業時間 | 8:30〜17:30(売り切れ次第終了) |
休日 | 火曜 |
電話番号 | 0977-22-5520 |
駐車場 | べっぷ駅市場の共同駐車場(20台) |
オススメ 商品 | 手作りのコロッケ 60円、巻き寿司 380円 |