通いたくなる夜

 

「いい小料理屋があるよ」と教えてもらったのは、やよい銀天街のアーケードが終わるところにある『美乃里』という店だった。「お客さんが多いから、開店直後に行った方がいいよ」という事前の情報通り、開店時間にのれんをくぐると、すでに2人のお客さんがいた。

「いらっしゃいませ」明るい女性の声がカウンターの中から聞こえた。そのカウンターの高台には、おばんざいがずらりと並ぶ。

 

 

お品書きや本日のおすすめが書かれたホワイトボードを眺めたり、先客の注文に聞き耳を立てたりして、悩んだ末にとりあえず数品を注文。料理を待つ間にも次から次へとお客さんが入り、カウンター8席と2つのテーブル席や個室は、あっという間に満席になった。

カウンターに並ぶ料理は、鯛や鯖の煮付け、ハンバーグやコロッケ、牛すじの煮込みにきゅうりの酢和え、ポテトサラダ、自家製とおぼしき梅干しの瓶など、どれも山盛りで品数が豊富。「いつもこのぐらいの品数を並べてから店を開けますよ」とオーナーのユリさんは言う。

山盛りの大皿から取り分けられたポテトサラダが「お待たせしました」と差し出されると、隣の席に座っていた常連らしいお客さんが「ここのポテトサラダはうまいよ」と話しかけてくれた。「どこから来たん?」と、見知らぬ人同士でも自然と会話が始まるのは、カウンターのあるアットホームな店ならでは。

聞けばこの常連客さんは、週に2度はこの店に来ているのだそう。いろんな話を聞かせてくれたが、最後に「本当は、この店のことをあんまり他の人に知られたくないんよなあ。あんまりお客さんが増えると、座る場所がなくなってしまうやろ」と言い残して帰って行った。本当に通いたい美味しい店こそ、内緒にしておきたいというその気持ち、とてもよくわかる。きっとここにはそういう常連さんが多いのだろう。

次は反対隣に座っていた2人組のお客さんに話しかけられた。「仕事で毎日近くにおるんやけど、この店はいつもお客さんがよう出入りしてるんよ。それで1回食べ行ってみようってことになったんよ」。ここに来たのは初めてとのことだったが、ユリさんともお喋りしながら楽しそうに飲んでいる。ユリさんは手を止めずテキパキと料理を提供しながらも、笑顔を絶やさない。

 

 

ベトナム生まれのユリさんが別府を訪れるきっかけは、大学留学だったという。学生時代にアルバイトしていた『うれしや』という小料理屋さんで覚えた味がこの『美乃里』に受け継がれているのだそう。かつての『うれしや』のマスターたちも、今は常連客としてここに通っているという。ユリさんの夫である『美乃里』の大将も、もとは『うれしや』の常連客。「この人、料理のセンスは抜群やもんね」と小声で教えてくれた。『うれしや』は、地元の人が足繁く通う人気店だったが、ユリさんが産休と育児のためにアルバイトを辞めたあと、惜しまれながら閉店してしまった。その後、育児が少し落ち着いたユリさんは、大将と共にこの店を始めたという。舌の肥えた大将は、いつもユリさんの横で調理補助をしている。『美乃里』をオープンさせる前までは会社員だったそうだが、まるで職人のように手際がいい。

 

 

カウンターに座っていると、聞き上手な大将とユリさんとの掛け合いを聞けるのが何よりも楽しい。

小上がりになったテーブル席の方を見ると、どのお客さんもくつろいだ様子でお酒とお料理を楽しんでいる。ユリさんが料理を運んでいくと、そのテーブルから楽しそうな笑い声が上がる。ここはお客さんにとって、我が家のような場所でもあるようだ。

大将がおすすめの日本酒を注いでくれた。さて、まだまだ笑いましょうか。

 

味処 美乃里

アジドコロ ミノリ

住所別府市元町5-4
営業時間17:30〜0:00 (LO23:30)
休日月曜
電話番号0977-25-0235
駐車場なし
オススメ
商品
ポテトサラダ300円 島とうがらし餃子400円 あべ川餅350円