待ち時間までもが楽しい

そこかしこから湯煙の上がる情緒ある温泉街、鉄輪。お寺や旅館、公共温泉が立ち並び、温泉の熱で温まったマンホールの上では猫がまどろむ。石畳の坂を歩いていくと、入り口が湯気でもうもうと霞む建物『地獄蒸し工房鉄輪』がある。

 

 

 

温泉の蒸気を利用してさまざまな食材を蒸しあげる地獄蒸し料理は、別府の名物グルメだ。ここ『地獄蒸し工房鉄輪』は、思い思いの野菜や肉、魚介類などを地獄釜で蒸し、その場で食べられる体験型施設。

 

国内外の観光客で連日賑わい、休日ともなると2~3時間待つこともあるが、ここでしかできない体験を求める人たちが集ってくる。「待ち時間の間に、足湯や蒸し湯を無料で楽しんだり、温泉を巡ったりするのもおすすめですよ」と館長さんが教えてくれた。

 

平日の午前中、まだ混雑していない館内で、メニューを眺める。単品をはじめ、肉と野菜のセットや魚介類のセットなど豊富なラインナップが揃っていて、何を食べるか迷ってしまう。

 

 

「ここで蒸すと、野菜が本当に美味しくなる。塩化物泉だから、ほんのり塩気があって野菜の味とよくマッチするんです。あとは大分県産のたまごかな。最近加わった新メニューも美味いですよ」と館長さんに勧められ、『野菜いもセット』と『スパイシーチキン』の食券を購入した。メニューは季節ごとに変更するそうで、釜使用料を支払えば食材の持ち込みもできるらしい。

 

 

 

釜の並ぶスペースは、1m先も見えないほどの湯気。そんな中、従業員のお姉さんたちは元気に対応してくれる。釜の使い方を教えてくれたお姉さんに一番好きなメニューを聞いてみると、ゆでたまごの半熟だという。「食べればわかる!」という力強い言葉を聞き、普段は固ゆでにするところを思わず半熟に変更した。

 

指示に従い厚手の手袋をはめ、ずっしりと重い釜の蓋を開ける。底の方からボコボコという重い音が響き、熱い熱い温泉の力強さに直に触れるような感覚を覚えた。顔全体に湯気をあびながら、食材を釜へ。

 

 

待つこと7分。タイマーとにらめっこしながらソワソワと落ち着かず、でも楽しい気分の待ち時間。再び重い蓋を開け、たまごだけを取り出すと、蒸気が逃げないようにすぐにまた蓋をした。本当にゆでたまごになっているのだろうか。

 

お姉さんが「あったかいうちに、今すぐ食べて!」とアドバイスをくれたので、慌てて席へ戻った。殻をむくと、ぷるんとやわらかめの白身がお目見え。何も付けずにひとくち含むと、見事な半熟に仕上がった鮮やかな黄身が覗く。お姉さんが自信を持っておすすめしてくれた理由は、すぐにわかった。調味料を何もつけていないのに、絶妙な塩加減。そして固まる寸前のとろりとした食感。これまでの経験にない味わいだった。

 

 

肉や野菜、最後にいも類と、蒸しあがった順に釜から取り出し、温かいうちにいただく。まったりとしたタマネギや、ほくほくと蒸しあがったじゃがいもなど、食材の旨味がぎゅぎゅっと凝縮され、温泉の塩気が甘みを引き立てている。タマネギにポン酢をすこしだけ垂らしていただくと、酸味が加わってさらりと食べられる。

 

ふと周囲を見回してみると、お昼が近くなって人が増えてきた。1人でじっくり味わっているお兄さん、笑顔で会話を交わすカップル、山盛りの肉を前にはしゃぐ学生グループ。他のお客さんたちも、一様に楽しさを隠せない表情だ。

 

こんなにタイマーを気にすることも、普段の生活の中ではなかなかない経験だ。長くはないけど短くもない、待っている時間までもがこんなに楽しいのは久々だった。

 

地獄蒸し工房 鉄輪

ジゴクムシコウボウカンナワ

住所〒874-0044 別府市風呂本5組(いでゆ坂沿い)
営業時間10:00-19:00
休日毎月第3水曜日(祝日の場合は翌日)
電話番号0977-66-3775
駐車場26台
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商品
野菜いもセット600円(税込)※地獄蒸し釜基本使用料(30分以内) 510円