歴史の深さと時の流れに思いを馳せる

 

寒空の下、真っ青な空をバックに佇む威風堂々とした姿に、思わず圧倒されてしまう。近代的なビルとは明らかに異なり、どっしりとした存在感の『別府市公会堂』は、昭和3年建設されたもの。時の流れの中で姿を変えながら、平成28年2月に建設当初の外観に復元された。日本の近代建築を開花させたと評される吉田鉄郎がまだ若い20代に設計した近代建築で、別府市の指定有形文化財だ。

 

 

 

建築に詳しくなくても、細部までこだわり抜かれたその美しさはなんとなくわかる。注意深く館内を見れば、可愛らしくメルヘンなモチーフがそこかしこに散りばめられていた。設計者の吉田は特にアーチや星のモチーフがお気に入りだったようだ。「こんなところにも星がある!」という驚きや、心躍る小さなトリックがたくさんある。

 

見上げれば天井には星のレリーフ。ホールのドアにも星型の秘密の覗き窓。階段の手摺は有機的な曲線を描く。廊下や窓辺はアーチ状に縁取られ、照明を下から見上げれば星のモチーフが幾重にも重なっている。

 

 

 

「ここから見るとね、星のランプの向こう側にステンドグラスがあって、まるで宇宙みたいでしょう」誰もが見惚れてしまうステンドグラスの少し変わった鑑賞技を教えてくれたのは、別府の歴史に詳しい永野康洋さんだ。

 

 

 

晴れた日の館内には、アーチ形や丸形など、珍しい形の窓から差し込む光が心地よい。飾り格子のシルエットが際立ち、思わず見入ってしまった。

 

 

 

「普段は鍵がかかっているけど」と言いながら、永野さんは屋上に案内してくれた。別府市街をぐるりと一望できる屋上には、強い風が吹いている。海から山へ、別府湾の向こうまで綺麗に見渡せる絶景だ。建物の壁には、○や×の模様などがレンガで形作られている。

 

 

 

「この公会堂を作った後、逓信省の技師だった吉田は、東京中央郵便局などの堅い仕事ばかりになったんですよ。僕が思うに、吉田は自由に設計できるこの建物に、やりたかったことを色々盛り込んでみたんじゃないかな」と永野さん。遊び心があちこちに散りばめられたこの建物のことを、知れば知るほど微笑ましい気持ちになってくる。まるで「みつけてごらんよ!」と設計者から挑まれているようだ。

 

 

 

建設当時は現存する大ホールの他にも、ビリヤード場や大食堂、温泉まであり、複合娯楽施設として大いに賑わったのだという。建設当時から残る、まるでアンティーク家具のような大ホールの椅子は、渋く黒い光沢を放っている。その木目に心を奪われつつ、腰かけ部分を手前におろして座ってみる。今の椅子よりも横幅が随分と狭いのは、当時の人の体格に合わせて作ったからだろう。昭和初期からずっとずっとこの場にあり、幾人もが腰かけてきた椅子に座るのは感慨深く、自然と背筋が伸びる。10年前、20年前、50年前も誰かが座り、今後も座り続けていくだろう椅子。思わず歴史の深さと時の流れに思いを馳せた。                   

別府市公会堂

ベップシコウカイドウ

住所〒874-0908 別府市上田の湯町6番37号
営業時間9:00-22:00
電話番号0977-22-4118
駐車場60台