ドアを開けると、チリンとベルが鳴り、スパイスの香りが漂う。窓のそばのぬいぐるみやまねき猫は、日なたぼっこをしているようで気持ち良さそう。店内のいたるところに、たくさんの本が並べられている。陶芸や染色の本、写真集、画集から小説、詩集、絵本に漫画まで幅広く揃えられている。
「何にしましょうか」店主の石川 千世子さんが声をかけてくれた。メニューを開くと野菜カレーやチキンカレー、カレードリアなどの定番メニューだけでなく、ダルやサモサなどのちょっと気になるものもある。ちょっと迷ったけれど、チキンカレーを注文。石川さんは「玄米と白ご飯、どちらにしますか? 半分ずつにもできますよ」と勧めてくれる。
温かみのあるエスニック風の店内のあちこちには、友人の作家が作ったという不思議な動物の人形がたくさん飾られていた。机の上や本棚の隙間など、思いがけない場所からもちょこんと顔をのぞかせている。
店名の由来はネパールの家庭料理『モモ』。餃子のような食べ物で、石川さんはその食感と名前の響きが好きなのだという。「可愛くて覚えやすいでしょう。娘の名前にも『モモ』ってついているのよ」。
『MOMO』はもとは鉄輪の近くで営んでいたものの、8年経ったある日ふと思い立って楠町へ移転してきた。以前は常連客が多かったが、移転後はふらっと入って来るお客さんの頻度が高くなったという。「この場所は開放感がありますね。商店街を歩く人を窓からぼーっと眺めるのも楽しいな」。最近は奥にある座敷をステージにして、音楽ライブや演劇公演、朗読会が行われる機会も増えてきた。
石川さんにとって人生の転機は、学生時代にインドを旅したことだった。詩人の田村隆一や美術家の横尾忠則が書いたインド旅行記に影響され、何度もインドを旅するうちに、毎日の生活で食べるカレーに惹かれ、自分でも作るようになったという。日本に戻ってきてからは、湯布院で屋台を出したり、別府の商店街の空きスペースに出店したこともあるのだそう。
チキンカレーは、スパイスが効きながらもあっさりとして食べやすい。口に運ぶごとに親しみを感じるのは、国は違っても、やはり家庭料理だからなのかもしれない。「カレーっていろいろな味があるから、それぞれを受け入れて、違いを楽しめたらいいよね」と石川さん。
カレーに馴染むようにと用意されたスプーンや食器は、インドで買い揃えたものや、石川さんのお父さんが働いていた別府の旅館から譲ってもらったものなのだとか。
「家にもいっぱい本があって、溢れちゃうからここに持ってきているだけなのよ」と言いながらも、「テーブルの上にわざと1冊、置いておくこともあるの」と茶目っ気混じりに教えてくれた。空気の入れ替えをするように、本もときどき入れ替える。それにお客さんが反応して、自然と物語が生まれていく。そういう交流が面白いのだとか。
石川さんは、自分からはりきって話しかけるわけではなく、お客さんたちの様子をそっと眺めるのが好きなのだそう。「初めて来るお客さんでも、この人は面白い人だろうなぁって直感でわかることがあるのよ」と微笑む。
カウンターの壁に立てかけてあった写真集を眺めていると「その本、私も好きよ」と朗らかに話しかけてくれた。石川さんの世界観が凝縮された、この温かい空間にもっといたいという気持ちになって、食後のケーキと温かい緑茶はゆっくりと味わうことにした。
住所 | 別府市楠町8-3 |
---|---|
営業時間 | 11:00〜17:00 |
休日 | 日曜(他にも不定休あり/事前に電話でお問い合わせください) |
電話番号 | 0977-77-1842 |
駐車場 | なし |
オススメ 商品 | チキンカレー 650円 |