広場と駐車場のあいだで、建物とまっすぐ向かい合うようにお地蔵さんが静かに佇んでいる。きれいに花が供えられていて、地域の人が大事に手入れをしていることがよくわかる。温泉のぬくもりを求めてやってくる人たちを日々見守っているようで、安らかな顔をしていた。
この温泉が『不老湯』や『不老泉』と呼ばれだしたのは明治初めのこと。明治35年に展望台付き白木造り3階建ての共同浴場が建設され、現在の『不老泉』の原型ができあがった。当時はお風呂上がりに展望台までのぼって、別府の町並みを眺める人たちで賑わったという。他に高い建物もなかったので、別府湾や高崎山、日出方面まで遠く見渡せたのだとか。大正10年の改築では、家族湯、上等湯、滝湯に加え、電気治療の温泉設備まで作られたというから驚いてしまう。昭和32年に鉄筋コンクリート造りとなった後も、変わることなく地域の人や観光客に親しまれてきた。
展望台から見晴らす当時の別府は、どんな町並みだったのだろう。
現在の姿になったのは平成26年。かつては、階段を降りていく地下構造の浴場だったが、建物の老朽化に伴ってリニューアルしたのだという。バリアフリー設計で、浴場までがひと続きのフローリングになっている。
番台さんに100円を払うと「手前が『あつ湯』、奥が『ぬる湯』。必ず『ぬる湯』から入ってね。ごゆっくり」とアドバイスをくれた。明治35年に建てられた当時の『不老泉』から脈々と受け継がれてきたという鬼瓦が、入り口正面で堂々とお出迎え。
脱衣所の貼り紙に「別府の温泉は浴槽から湯をくみ出すスタイルです」と書かれていた通り、シャワーは1つしかない。浴槽のふちを囲むように、輪になって身体を洗っている先客たちに挨拶を交わしながらかけ湯をして、ぬる湯に身体を沈める。
湯の波に身を任せながらあたりを眺めていると、1人ずつ体の洗い方に癖があることに気づく。みんな自分の体を、それぞれのやり方で大切に労わっているのだろう。
少し勇気を出して、あつ湯にも挑戦してみることにした。想像以上にひりりと効く熱さ。本当はもっと浸かっていたかったけれど、30秒ほどで上がってしまった。
脱衣所で身体を拭いていると、隣のロッカーを使っていたおばあちゃんが気さくに話しかけてきてくれた。「近所に温泉が3軒あるんやけど、ここまで歩くのが運動になるけん、家から15分かけて通っとるんよ。近くで買い物もできるし」。ライフスタイルに合わせて入る温泉を選ぶなんて、別府らしい。
「ここは『不老(ふろう)の風呂(ふろ)』やけんね」と笑って、おばあちゃんはささっと脱衣所を後にした。
住所 | 別府市中央町7-16 |
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営業時間 | 6:30〜22:30 |
休日 | 年末大掃除日(不定) |
電話番号 | 0977-21-0253 |
駐車場 | 9台(うち車椅子利用者用1台) |
オススメ 商品 | 入浴料 100円 |