際立つシルエットの美しさ

ふすまを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、鶴が群れをなして飛び立つシルエット。障子越しの淡い光の中にくっきり浮かび上がる光景に、言い知れぬ懐かしさがこみ上げ、胸を締め付けられた。

 

よくよく見れば竹と梅の細工も施されている。松竹梅が揃うこの部屋は、『松竹梅の間』と呼ばれている。廊下に、部屋に、棚に、扉に、見逃せない細工がそこかしこに散りばめられている。

 

 

木材商が企てた、贅を尽くした究極の遊びの間。それが古民家ゲストハウス『In Bloom Beppu(インブルームベップ)』の最初の姿だった。1941年に建てられ、一時は米軍が利用していたこともあったという。

 

職人が思う存分力を発揮して作ったこの建物には、細部まで見落とさぬよう凝視し、すべてを目に焼き付けておきたくなるような、不思議な魅力がある。

 

 

この宿の魅力は建物だけではない。宿主の花田潤也さんのあたたかくユーモアあふれる人柄に惹かれる人も多い。

花田さんは熊本県の出身。ふらりと立ち寄った飲み屋の魚のうまさに驚き、共同浴場で触れた人情に惚れこみ、10年ほど前から別府に通い始めたのだそう。

 

「転機となったのは熊本地震でした。本当は子育を終え、定年退職してから移住しようと考えていたんです。でも、地震がきっかけとなり、命の使い方について考えたんです。それに、全力でなにかにチャレンジしている姿を子どもに見せたいという気持ちもありました」。そんなときにこの建物に出会い、ゲストハウスを開くに至ったのだという。

 

 

「一般的なゲストハウスは安く泊まれることをウリにしているところが多いのですが、うちは違います。家に敬意を払って、この別荘のストーリーを知ってほしいと思っています。古くて良いものを残して、子どもの世代に伝えていかなくちゃいけないですよね」と熱く語る。

 

 

コミュニティルームに案内され、畳に素足で上がった瞬間、しゃりしゃりと足裏が心地よく、普通の畳と少し感触が違うことに気づく。実はこの畳『国東七島藺(くにさきしちとうい)』という琉球畳のルーツともいわれるもの。350年もの歴史があり、大分県の国東地方だけで生産されている植物で作られている。花田さんは「この感触を味わってほしくて、わざと座布団なんかは置かないようにしています」と、いたずらっぽく笑った。

 

 

宿の周辺のディープな魅力を紹介する『SENPO MAP』を作成し、スマホに頼らずアナログで楽しむ旅の提案もしている。迷うこともまた旅の醍醐味。別府の人との生の触れ合いにも繋がればと願っているそうだ。

 

 

古き良きものに囲まれて、しばし現代から隔離されてみる。スマホの電源を落とし、ふらりと町に出る。予定なんて立てなくても、人と出会いや触れ合いが、思いもよらない特別な場所や時間と引き合わせてくれる。そんな旅が実現できる宿だ。

In Bloom Beppu

いんぶるーむべっぷ

住所大分県別府市西野口町1-19
休日なし
電話番号0977-80-1867
駐車場なし