別府温泉のシンボル的存在の竹瓦温泉からほど近い繁華街にある『野上本館』。ここは海外の人からも人気が高い温泉旅館だ。
フロントで明るい笑顔と柔らかな物腰であたたかく迎え入れてくれたのは、棚田さんと樋口さん。入り口付近では、一瞬だけ猫が立ち止まってこちらを見ていた。
『野上本館』の歴史は古い。もともと魚屋をしていた先々代が、昭和18年に魚料理を提供する宿として『野上旅館』をスタートさせたのが始まりだ。
戦後、事業は軌道に乗り「野上ホテル」や「野上別荘」などが次々とできたものの、結局は「野上旅館」を引き継いだ「野上本館」だけが残ったという。
「昭和40年頃からバブル景気に沸く時代にかけて、連日連夜の宴会で盛り上がったのですよ。その後、バブルも弾け、客足が遠のき始めた頃に、僕が後を継いだんです」。穏やかな笑顔でそう語るのは、社長の野上さん。スマホもなく、インターネットが普及していなかった時代から、インターネット予約を受け付けるシステムを作り。創業時からの主流だった団体客による宴会も廃止して、個人客専門の宿に切り替えた。
さらに、海外からのお客様をターゲットにすることで、「繁華街の中にあり静かではない」という弱みは、「駅からのアクセスが良い」「日本の街を体験できる」という強みに切り替えていった。
これが功を奏し、徐々に宴会なし・食事なしの今の宿泊スタイルを確立していった。
時代を先読みし、弱みを強みに変えながら、この宿は変化を続けてきた。「新しい事にチャレンジして、誰かが始めたころには次の事を考える。常に変化し続けるのが、面白い」と、野上さんは話す。
そんな野上さんが力を入れて作ったお風呂『刻の湯』に案内してもらった。色とりどり、形も質感もさまざまなタイルで壁面に施されたみごとなモザイク画は、その素材1つとってみても素晴らしい。
焼いていないタイルや紅色のべんがらを混ぜたタイル、火山灰を混ぜたタイル、江戸時代や大正時代のタイルなど、希少なタイルが多数使われている。実はアンモナイトも埋め込まれているというが、見つけるのはなかなか大変。昔のお皿やシーグラスもあしらわれている。
豆タイルの美人画に思わず息をのむ『光壽泉』、完全バリアフリーで車いすでも利用できる『喜久泉』。「それぞれに言い切れないほどのエピソードがあるんだけど、全部話してたら何時間あっても足りないな」そう言って笑う野上さん。
広い視野を持ち、時代の一歩先を進む野上さんは、いち早くペットと泊まれるサービスを開始したり、LGBTへの配慮など、常に新しいことを考え実行に移していく。それでいてふわっと柔らかな雰囲気をまとっている野上さんと同じように、宿自体もやさしさとユーモアにあふれていた。次はどんな仕掛けをしてくれるだろうか。
住所 | 別府市北浜1-12-1 |
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電話番号 | 0977-22-1334 |
駐車場 | 9台(提携駐車場も利用可) |
その他 | E-Mail beppu.nogamihonkan@gmail.com |