湯冷めしない温泉

東別府駅で電車を降り、ゆるやかな坂道を下りていると、淡いクリーム色の壁に赤いペンキで描かれた温泉マークが見えた。近づいてみると「東町温泉」と書かれた看板。“電車待ちの時間にひと風呂”という小粋な文句にクスっとしてしまった。

 

 

暖簾をくぐれば鄙びた番台、昭和にタイムスリップしたかのようなベンチ、扇風機。手書きの「入浴料100円」の文字がとてもいい味を出している。

 

「80年以上は経ってるんじゃないかな。私が赤ちゃんの時からあるからねぇ」と話すのは、『東町温泉』を管理する三ヶ尻 幸司さん。生まれた時からずっとこの温泉に入っているそうで、3人のお子さんも全員ここで産湯をつかったのだという。

「50年前の大きな台風のときには、ここの2階にある公民館に避難したこともあるよ」。三ヶ尻さんは常に『東町温泉』と共に人生を歩んできているのだ。

 

 

最初は平屋だったという『東町温泉』、今の2階建てになったのが60年ほど前だそう。1回100円、30回の回数券は1,900円ととってもリーズナブル。

 

今では1日70人程度だが、20年くらい前は、多い時で1日300人以上の利用客がいたという。「今から30~40年前かな、息子が中学生くらいんときはイモを洗うようにたくさんの人が同時に湯に入ってたよ」と当時の様子を懐かしんでいた。

 

 

料金を備え付けの料金箱に入れて階段を下る。天井がとても高くて広い空間に、アンバランスなほど小さくてかわいらしい湯船。

 

 

お風呂が半地下になっている温泉は別府ではよく見かけが、ここまで深く地下になっている温泉は少ないそうだ。

 

湯船は3~4人も入れば満員になってしまう狭さ。20年以上前は2つの湯船を使用していたが、利用客が減った今、1つは熱湯を貯めるために利用されている。

 

 

かかり湯のお湯をすくっていると、先に入っていたおばちゃんがタイルのはがれたところを指差し「ここに熱い湯がたまるけん、気を付けよ」と教えてくれた。

 

湯に浸かると、さらに天井が高く感じられる。壁には別府市在住のイラストレーター・網中いづるさんの作品。かわいらしくデフォルメされた海と山は、別府湾と高崎山を描いたものだろうか。柔らかで美しい色のふわっとしたイラストが、お風呂全体を明るくしているようだった。

脱衣所の棚の上にはお花や雲が描かれている。「あ、こんなところにも」と、隠れるように描かれた猫の絵を見つけて、ちょっと嬉しくなった。

 

 

帰りに番台さんにお礼を言おうと覗き込むと、「この辺はいい温泉がいっぱいあるから、いろんなところに入ってみてね。今日はありがとう」と、先にお礼を言われてしまった。

優しい人柄に触れ、湯あがりの心がさらにあたたかくなった。いつまでもじんわりとあたたかい、湯冷めしない温泉だ。

東町温泉

ひがしまちおんせn

住所別府市浜脇1丁目16-1
営業時間6:00~22:45
休日なし
電話番号0977-21-1267
駐車場6台
その他入浴料 100円(税込)