「こんにちは。お荷物お持ちいたします」エントランスに到着すると、さっそく明るい声と弾けるような笑顔が出迎えてくれた。驚くほどあたたかい歓迎に、こちらも笑みがこぼれる。
昭和25年、『白菊荘』という小さな宿から始まったという『ホテル白菊』。現在は老舗の風格が漂う、別府屈指のおもてなしの宿として知られている。高い天井と中央に配置されたロビーは圧巻で、気分が高揚してしまう。
フロントでチェックインの手続きをすませると、スタッフの女性が和やかにおしゃべりしながら部屋まで案内してくれた。部屋の設備を丁寧に説明しながら、お茶まで用意してくれる、厚いおもてなしに驚きつつ感動する。
窓の外には別府の町と海、そして別府タワーが見下ろせる、長い水平線の両端には山も見える一大パノラマ。シンプルな和室に、掛け軸と生け花が主張しすぎずに飾られており、ゆったりくつろげる空間だ。
荷解きをして一息つくと、ホテル自慢の浴場に向かった。大きく開放的な露天風呂は温泉通にも大人気で、お風呂目当てでやってくるお客さんも大勢いるという。露天風呂への出入り口のすぐ脇には、3本の大きな楠がある。しなやかに枝葉を広げ、客室からのちょうどよい目隠しという役割も果たしている。風に揺れる楠を眺めながら入るお湯は、心地よくて長湯してしまいそう。
ふわふわと柔らかな自然光が湯面に注ぐ内風呂は、とにかく広い。見事な総ヒノキの天井に映る水面のゆらぎにうっとりする。
ホテルを散策すると、日本庭園を見つけた。鯉が泳ぐ池、四季折々の樹木、小さな滝と飛び石、橋まであるコンパクトな庭園だ。ホテルの庭園だけあって、料理のあしらいに欠かせない「つまもの」が数多く植えられている。奥のほうには大きな杉と楠も見える。大木がホテルの歴史の長さを物語っているよう。
庭園を眺める位置に建っているのが、レストラン『浜菊』。大きないけすの前では、板前の調理している姿が見えた。長い刃の包丁で、すっすっと食材を切り分ける手際の良さに思わず見惚れてしまう。
「最近では手間がかかるので部屋で料理を出すホテルや旅館が減っているんです。でも、私たちは部屋食も大事にしています。人が人をおもてなすあたたかさを大切にしたいんです」と、案内してくれるお姉さんが微笑んだ。
長年お客様をもてなし続けてきた老舗ホテルだからこそできる、スタンダードだけど贅沢な旅。何十年か後にもう一度訪れ、変わるもの・変わらないものを探すというのはどうだろう。まだ見ぬ先の“楽しみの種”を今から蒔く、そんな贅沢も叶う場所だ。
住所 | 大分県別府市上田の湯町16-36 |
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休日 | なし(不定で休館日あり) |
電話番号 | 0977-21-2111 |
駐車場 | 70台 |