日々の雑事をリセットするカレー空間

個性的なお店が軒を連ねる北高架商店街を抜け、北部旅館街へと進むと、微かなスパイスの香りが漂ってくる。旅館街の入口にある『TANE』は、南インドのミールスを提供するカレー専門店だ。

 

 

扉を開けて、店内に足を踏み入れる。上澄みだけをすくったような、清らかな空気が流れてくる。店主の太田茂豊さん、妻の美沙さんが、カウンター越しに優しい笑顔で迎えてくれた。

 


複数のカレーと副菜を混ぜながら食べる南インドのミールスは、混ぜ方や食べる順番で劇的に味が変化する。何度食べても新しい発見や驚きが体験できるのだ。そして、体の中から綺麗になるような感覚がある。1皿のなかで何度も新しい味に出会い、もっともっとと食べ進めてしまう。そしてまたすぐ味わいたくなるような、不思議な魔力を持っているのだ。

 


店内に置かれている小物や本、イスやテーブルなどの調度品、お皿やコップなどの食器類は、統一されているわけではないのに一体感がある。あるべくしてその場所にあるような佇まいと、唯一無二の世界観に心惹かれ、背筋が伸びるような心地良さに包まれる。そんな感覚も、『TANE』にファンやリピーターが多い理由の1つだろう。

 


太田さんが南インドカレーに出合ったのは、いまから約10年前。タイ、マレーシア、スリランカを経てインドへ渡ったときのこと。現在お店で提供しているミールスのベースとなっているは、現地で習ったレシピだ。太田さんは毎日ように店に通い「何が入っているの?」「どうやって作るの?」と店主を質問攻めにした。やがてキッチンに招き入れてもらえるようになり、次は朝早くおいでと誘われ、そして野菜を切るよう指示されて、気付けばアルバイト同然に手伝うようになっていた。教えてくれたお母さんは英語がほぼ話せなかったので、材料などの単語だけは覚え、あとはフィーリングで乗り切ったという。なんともおおらかでインドらしいエピソードだ。

 


『TANE』のカレーは、インドの味を日本向けにアレンジしたものではなく、現地の味を日本で再現できるよう工夫されいる。たとえば、インドの野菜は日本のものに比べて味が濃くて水分が少ないため、日本で作る際は水を少なめにして調整することが多いのだという。

 


「インドで習った料理を日本に帰って作り、そしてまた習いに行く。覚えている味の輪郭に近づけるようなイメージですね。いつも味を確認しにインドに行くようなものです。今年のはじめ、久々にインドへ行って料理人に教えてもらう機会がありました。そうしたら、『実はすごくシンプル』ということに気付いたんです。そこで、今は前よりも作り方がシンプルになりました」

本場の味と、体が整う心地良さを提供してくれるカレー店。リセットしたくなったら、なんだか疲れを感じたら、つい足を運びたくなる場所だ。

TANE

たね

住所大分県別府市駅前本町10-2
営業時間11:30~17:00
休日不定休 ※Facebookでご確認ください
電話番号080-3950-3457
駐車場なし
その他Facebook https://www.facebook.com/TANEspice/