あたたかさが染み入る鴨鍋

「人を大切に、これがすべて」

『お食事処 きむら』大将の木村康行さんは、熱を込めて繰り返す。15歳から貨物船に乗り、船の厨房で働いた木村さん。乗船中は休みもなく大変だったものの、ヨーロッパやアフリカなど世界各地に行ったことは鮮明に覚えていると言う。新しいものに出会い、初めての場所や世界に触れて楽しかったと、今でも思い出す。船を降りた後、自身で店を持ちたいとの思いから大阪で修業を重ねた。数多くの専門店があるが特別な勉強方法はないと悟り、別府に来て店を構えるに至った。

 


現在は妻・與(あたえ)さん、娘の栄美子さん、息子の智彦さん、その妻・りつ子さん、一家総出でお店を回す。別府市内の別の場所で20年、現在の店で22年間も営業を続けている。

 


お店の名物は、鴨鍋。鴨が厚切りで大きく、ボリューム満点。程良い弾力で噛むほどに旨味が染み出すようなお肉と、優しい甘さのスープが絶品だ。

 


とろとろに煮込まれた野菜は、いくらでも食べられるご馳走になる。一見食べきれるか心配になるほどのボリュームだが、ネギや白菜の甘味、ゴボウの香りに箸が止まらない。椎茸嫌いの子どもが食べられるようになったという話もあるという。

しめの雑炊を作りながら「もうお腹いっぱいでたべられないって言うお客さんも、結局ペロリと平らげちゃいます」と笑う栄美子さん。昔から家でもよく鍋料理を食べていたそうだが、飽きるどころかご馳走だったと教えてくれた。

 


「冬に鍋を食べたいっていうお客さんがいらしてね、たまたま鴨肉があったから、鴨鍋を作ったんです。それがきっかけで、定番メニューになりました。出張でいらしたお客さんが『家族にも食べさせたい』って言ってくださったので、全国発送も始めました。冬場は発送が多くて、目が回るほど忙しいんですよ」。鴨鍋は家庭で楽しむだけでなく、年末年始の贈答に用いられることもあるという。「一度来店したお客さんが、広めてくれているんですよ。届いた先で鍋パーティーが開かれて、そこで食べた人が気に入って、実際にお店に来てくださったこともあります。人が人を連れてきてくれるんですよ。やっぱり最後は人間なんです」。

 


とにかくお話好きで、人の情を何よりも大切にしている大将。聞けばいろいろな話を聞かせてくれるが、今夢中なのは5歳になるお孫さんのこと。とにかく孫がかわいくて、夜は子守専門だと満面の笑みを浮かべる。「あのとき頑張ったから、今幸せだとしみじみ思う。ちゃんと生きればいいことがあるし、ふざけるとそれなりの人生」。家族を大切に、人を大切に、誠実に人生と向き合ってきたからこそ今が幸せだと言い切る大将の人柄と、それを反映したようなあたたかい鍋が幸せな時間を生み出してくれる。

お食事処 きむら

おしょくじどころ きむら

住所大分県別府市新港町2-14
営業時間18:00~22:00
休日木曜日
電話番号0977-24-2523
駐車場10台