開店5分前、『山本ロース』の前にはすでに行列ができていた。店内はL字型のカウンター席のみ。カウンター奥の壁の上方には薩摩十字の家紋が描かれている。その向こうに厨房があるようだが、壁で覆われていて窺うことはできない。
むき出しの蛍光灯と、グレーとアイボリーに塗り分けられた壁。色や装飾を極力排除した内装には、「商品の味だけで勝負する」という意思が反映されているようで背筋が伸びる。
券売機で食券を購入し、カウンターに座る。ほどなくして目の前に置かれたのは、黒豚ロースとエビフライ。1.5~2cm程ある分厚いとんかつは、表面には濃い揚げ色がついているが、肉自体はピンク色が残っている。ザクザクっとした衣の後に、豚の脂がじゅわっと広がった。臭みがなく、ほんのり甘い、究極のとんかつ。そんな言葉が頭に浮かぶ。「今、肉そのものを食べている」という感覚を得られる食体験がここにある。セットのお漬物は、さっぱりしていてほんのり甘く、箸休めにぴったり。だしが濃いめのお味噌汁も味わい深い。
原料の肉は、鹿児島直送の黒豚と南州ナチュラルポーク(白豚)。衣は鹿児島から週に3回取り寄せる糖度高めの食パンを店で挽いて使用している。
カウンターに並ぶ調味料は、メニューによって使い分けができる。味がしっかりしている黒豚は、たっぷりソースとレモンにからしを添えて。比較的あっさりした南洲ナチュラルポークは、ソース、塩、醤油なんでもよく合うと言う。味噌ロースや味噌ヒレの場合は、ゴマと一味でいただくのがおすすめだと教えてくれた。「豚味噌」は、ごはんに乗せるといくらでも箸が進む。持ち帰っておにぎりの具にしたら、きっと最高だろう。
熱狂的なファンを持つ『山本ロース』、現在は店名の通りとんかつ専門店だが、以前はカレー専門店、その前はドーナツ専門の店を運営していた。店主いわく、「ボーカルは変わらずバンド名が変わり、ジャンルが変わる。それだけのこと」。とんかつにはもちろん、店主自身に惚れ込む人が多いのも納得だ。
別府出身の店主は高校卒業後、3年間をアメリカで過ごした。アメリカで『ドーナツプラント』『ピータールーガー』に出合い、ルームシェアしたインド系の友人にはカレーを伝授され、その友人の親戚のお店でスパイスに魅せられたという。
帰国後は福岡で服飾を学び、別府で別の事業を展開しながら飲食店を趣味半分ではじめた。現在の店に移転と同時に法人化し、飲食店が本業になった。ニューヨークでの食経験が、すべての店の原型となっている。
「今はお客さんが来てくれるだけで嬉しい」と言う店主。食に対して妥協しないその姿勢と、完成された味はこれからも多くの人々を虜にしていくだろう。予想もしない展開が、この先も待っているかもしれない、そう思わずにはいられない。
住所 | 大分県 別府市石垣東10丁目1-40 栗原ビル1F |
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営業時間 | (月曜~土曜) 午前の部11:00 ~ 14:00 (月曜~金曜) 午後の部18:00 ~ 20:00 |
休日 | 日曜日 (祝日は営業) |
電話番号 | 0977-84-7828 |
駐車場 | 2台 (店舗前が満車の際は隣の『ホテルサンバリーアネックス』立体駐車場へ駐車可) |