別府駅を背に坂をのぼると、ほどなくして銅板の屋根が付いた看板が現れる。見上げれば大きな楠が枝をいっぱいに広げ、風にそよいでいる。『ホテル白菊』は堂々とした風格があり、少し背筋を伸ばして入りたくなるホテルだ。「いらっしゃいませ」と、ホテルスタッフが丁寧に頭をさげる。笑顔のお出迎えに心が高鳴る。
昭和25年に企業の保養所を買い取ってスタートした『ホテル白菊』。創業当時は敷地内に大きな日本庭園があり、数棟の離れが点在していたという。現在もその一部を残し、別府の老舗ホテルとして歴史を刻んでいる。
「食の白菊」とも称される『ホテル白菊』は、食へのこだわりに定評がある。かつて開催され大好評を博した『ワールドディナピック』では、一流シェフによる世界各国の料理が堪能できたという。別府湾から高崎山までを一望する、最上階の展望レストランで開催される『ワールドディナピック』での食事は一種のステイタスであり、『ホテル白菊』は食通たちの憧れの場所だった。
そんな『ホテル白菊』で、創業まもなくから50年以上提供され続けているのが、洋食シェフが作る特製カレーだ。舌を包み込むような上品なまろやかさのなかに、しっかりとスパイスが香り、深いコクと甘味が広がる。じっくり煮込んだホテルカレーならではの、リッチな味わいだ。
特製カレーには、創業当初から受け継がれる豊後牛カレーと、朝食ビュッフェ用に誕生したオニオンビーフカレーの2種類がある。豊後牛カレーは、柔らかく煮込んだ肉を一度取り出し、提供する直前にカレーとあわせているため、豊後牛の柔らかい食感と旨味が楽しめる。オニオンビーフカレーは4~5時間ソテーして甘味を引き出したたまねぎに、ココナッツミルクや生クリームを加えたまろやかな味わいだ。
2種の異なる味わいのカレーだが、ベースは同じものを使用している。ニンニク、しょうが、タマネギ、にんじんをスパイスと共に1時間ほど炒めた後、4~5時間オーブンで焼き辛さを飛ばす。そして、りんごやブイヨンと、企業秘密の材料を混ぜてミキサーにかけ、裏ごしして煮込みベースができあがる。1つの鍋で作るのは100人前ほど。完成までには6~7時間を要するという。驚くほどの手間暇がかかっている。
『ホテル白菊』のカレーを作り10年、それ以前も20年間カレーを作り続けてきたという料理人の川元さんは「同じ材料を使っても、ルーの炒め方で味が変わるんですよ。前の人から受け継いだレシピを忠実に守っています」と教えてくれた。
リピーターからの根強い人気に応え、2020年から売店にてレトルトカレーの販売も開始した。朝食ビュッフェでカレーを食べた宿泊客や、館内のお食事処『浜菊』にランチに訪れた人が、お土産に買い求めることも多いという。長年愛され続けてきた老舗の味は、時代を超えて多くの人々を魅了し続けている。
住所 | 大分県別府市上田の湯町16-36 |
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営業時間 | 館内売店の営業時間はホテルにご確認ください https://www.shiragiku.co.jp/ |
休日 | なし ※不定休で休館日あり |
電話番号 | 0977-21-2111 |
駐車場 | 70台 |