ふと恋しくなる、大分の郷土料理

 

緑に覆われた一角に、赤い大きなお椀が見える。お椀の下には『甘味茶屋』の文字。奥へ進むと、古民家のようなお店があった。飛び石を渡り、入口の引き戸を開けると「いらっしゃいませー」と元気で明るい声が響く。平日2時半なのに、ほぼ満席状態。カップルや子連れ、お年寄りまで客層は幅広く、意外にも若い人が多いのが印象的だった。

 

 

畳、濃紺の座布団、木のテーブル、すべてがその場にしっくり馴染み心地よい。窓の外には木々が風に揺れていた。和紙の丸い照明が灯り、田舎のおばあちゃんの家のような懐かしいあたたかさに包まれている。『甘味茶屋』は45〜46年ほど前、現店主の楠橋 岳志さんのご両親が建てたお店だ。開店後10年程で創作日本料理『つれづれ』を開業。そのまた20数年ほど後、2つのお店を物理的にも統合して1つのお店になったという。そのため、少し不思議なコの字型の造りで、店内はとても広い。

 

 

注文したのは、お店の看板メニュー「だんご汁」だ。赤・白・麦を独自にブレンドした味噌と、にんじん、大根、さといも、ごぼう、はくさいなどの野菜、そして手造りの手延麺が入っている。太くて分厚い麺は、しっかりとした噛みごたえ。味噌と野菜のうま味をたっぷり吸い込んだ素朴な味わいで、しみじみ、じんわりと優しい。旬のかぼすを絞ると、爽やかな風味が広がる。竹筒に入った粉末のゆずごしょうを振りかければ、ピリッと味が引き締まった。

 

 

だんご汁と同じ麺をきなこと砂糖でまぶしたものが、大分名物の「やせうま」。箸で持ち上げると、その重さに驚いてしまう。ふんわりした甘さで包まれて、思わずにんまり。砂糖の量は自分で調節できるのも嬉しい。お腹いっぱいなのに、たっぷり余ってしまったきなこを箸ですくって食べてしまった。注文する人が多いという「とり天」も大分のソウルフード。からしではなく、ゆずごしょうでいただくのが『甘味茶屋』流だ。

 

 

「お餅がメインの料理やお菓子、そばねりなど、気づけば食べる機会が少なくなっている、気取らない家庭料理もお出ししています。子どもから大人まで、どんな好みの人も楽しめるメニューを心がけ、季節感も大切にしていますね。『やせうま』は、ムスリムフレンドリーとして大分県からも認定されました」と、教えてくれたのは松下宣明さん。出身地の宮崎県から大学進学を期に別府へ移住し、大学時代はアルバイトで、卒業後は社員として、計9年『甘味茶屋』で働いている。お店の従業員どうしで結婚し、現在も夫婦揃って働いているという。

 

 

「とにかく店長夫妻の人柄がよくて働きやすいので、気づけばずっとお世話になっています。最近は由布院にもお店をオープンしたんですが、そちらも落ち着いた雰囲気で、ゆっくりできておすすめです。どちらの店舗でも、季節でメニューを変えたり、新メニューを考案したりしてお客様をお迎えしています。100種類以上あるメニューから、お好みのものを見つけてもらえたら嬉しいですね」。柔らかい笑顔からは、松下さんのお店への愛がにじみ出していた。

甘味茶屋

アマミチャヤ

住所大分県別府市実相寺1-4
営業時間10:00~21:00(.LO. 220:30)
休日なし(臨時休業あり)
電話番号0977-67-6024
駐車場30台